1week短編・番外編
□ルーシェン王子の話
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ふわっと懐かしい匂いがした。
草花や土や水の匂いだ。
空気が濃くて甘い。
心地良い風が頬を撫でていく。
赤い光が消えた時、俺は都会のビルの一室ではなく、円い浮き島の中央に立っていた。
視界いっぱいに広がるのは巨大な都市。
黄金色の王宮、空を飛ぶ極彩色の鳥。
一年前と何も変わっていない。
「……王都だ」
「お疲れさまでした。こちらは東門近くの浮き島……」
「王都だああっーーー!!ひゃっほーう!!」
俺が急に叫んだので、如月が固まっている。
でもいいんだ。
嬉しいんだ。もう一度この景色を見ることができて。
浮き島の端に行き、湖を見渡せば、星空のような緑色の光が底一面に広がっている。
緑水湖も変わらず綺麗だ。
「リョッシーーー!!!俺は帰ってきたぞー!!」
遠くを泳ぐリョッシーに向かって叫び、動物に運ばれていく人々に手を振る。
懐かしすぎて涙が出そうだ。
一年前に体験したいろいろな出来事が、走馬灯のように脳裏を駆け巡った。
***
「落ち着きました?」
感慨に浸ること十分。
しびれをきらした如月が声をかけてきた。
『大丈夫です。こんにちは。私の名前は岬修平です。私の言葉はまだ通じますか?』
久々に使ったラキ王国の言葉に、如月がくすりと笑う。
「通じますよ。翻訳機もありますけど、使いますか?」
「もっと言葉を勉強して、そのうち翻訳機なしで生活したいけど、慣れるまでは貸してくれ」
「分かりました。翻訳機は職場にありますから後で取りに行きましょう。その前に、これから岬さんが滞在するお部屋に案内します」
「部屋もあるのか?」
「あなたの世界でいう所の社員寮のようなものです」
住む所は自分で探すのかと思ってた。
社員寮というからには家賃も少しくらい安いのかな。
俺はラキ王国のお金を全く持っていないから、家賃は安いほうがありがたい。
如月が何か呪文を唱えると、するすると白い物が水面に伸びて、浮き島と王都の間に橋がかかる。
「こちらです。ついてきてください」
俺はスーツケースを持ち、はしゃぐ気持ちをおさえながら如月の後をついていった。