転生したら神子さまと呼ばれています

□神子さまの仕事
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 アルバートが死んでから……複数の結婚相手を選ぶ? なんだろう、すごく悲しい気持ちになって胸が痛い。何か思い出しそうだ。

「かなめ様、アルバート殿、庭園には二重に兵を配置しております。魔法の結界もありますのでご安心を」
「あっ、はい。ありがとう」

 ジャック隊長の言葉で我に返る。ジャック隊長とアラン隊長に挟まれて祭事場に足を踏み入れると、待っていた人々から歓声が上がった。王様と王妃様、王子様やお姫様もいる。名前忘れたけど。誰か教えてくれないかな。会話する時がきたらなんて誤魔化そう。役職でいいかな。
 大司教のおじいちゃんとキリアン司祭さまも先に来ていた。

 「神子さま、昨夜は呪術の攻撃を受けられた聖騎士たちを一日で治療なさったとか。素晴らしい力だ。さすがは神子さまだ」
「は、はい。ありがとうございます」

 さっそく王様に話しかけられた。正式な挨拶しなくていいのかな。胸に手をあてて膝をつくあれ。でもアルバートが手を繋いでるから無理っぽい。アルバートは片手を胸に当てている。俺は扇で半分顔を隠してるけど、見せた方がいいのかな。礼儀作法がよくわからない。

「ウルム国王、神子さまのおかげでこの通り全快いたしました」

 そういえばウルムって名前だった。さすがアルバート。内心喜んでいたら、王子様もやって来た。
 
「神子さま、今日も麗しい。どうか顔を隠すのをやめて私にその美しい素顔を全て見せてはいただけないでしょうか」
「ええと……」
「おお、お前もそう思うか。我が国の神子は世界一の美しさを持つと貴族たちの間でも評判なのだ。私も国王として非常に誇らしい」

 二人がいつまでも引かないので少しだけ扇をずらして顔を見せたら、王子様は目を見開いてのけ反った。どうしたんだろう。

「やはり、想像以上の美しさだ……! 前回は夢を見ていたのかと思っていましたが、現実だったとは」
「確かにずっと手元に置いておきたい美しさだな。このように美しい神子を地下深くに隠していたとは、大司教も人が悪い」

 そんな大袈裟な、と思うけど二人の視線が本気な気がして居心地が悪い。

「神子さま、どうか今夜は私と一曲踊っていただけないでしょうか」
「えっ?」

 名前も知らないし、なんとなくこの王子様苦手なんだけど。顔も青白くて目つきも表情も意地悪そうだし。困ってちらっとアルバートを見上げる。

「シュロク王子様、神子さまは眠りから目覚めたばかりで、歩くだけでもお疲れのご様子です。舞踏はもう少し日を置いてからの方がよろしいかと思いますが」

 その言葉を聞いて王子様が一瞬アルバートを睨んだように見えた。びっくりしてアルバートの手をぎゅっと握る。

「アルバート殿、美しい神子を独り占めとは羨ましい立場だな」
「伴侶に選ばれましたので」
「シュロクよ、そう憤るでない。アルバートも神子さまと同じく国の宝だ。神子を目覚めさせた騎士であり、神子さまとはまた違う美しさを持っておる。また別の機会にすればよかろう」

 フォローを入れているはずの王様の言葉もなんだか怖い。

「あの、王子様ごめんなさい。踊りはまた今度で……」
「では約束ですよ、神子さま。今度ぜひ私と踊ってくださいね」
「は、はい」

 王様と王子様にそそくさと挨拶をして用意された席に座る。シュロク王子も王様もずっとこっちを見ていてなぜか変な汗が出た。

「アルバート、断ってくれてありがとう」
「いや、俺もあいつらは苦手だ」

 よそいきの表情なのに小声で本音を伝えてくるアルバートが面白くてくすっと笑ってしまった。

「王族の前では扇で顔を隠していた方がいいな。王子も国王も美形に目がない。執着されると厄介だ。すでに手遅れのような気もするが……」
「……うん」

 国王って、当然だけど国で一番偉いんだよな。俺と結婚しろって言われたらどうしよう。王子様に褒められても嬉しくないし、見つめられるとゾワっとする。神官や聖騎士さんたちはみんな好きなのに。

 食事が運ばれてきて、美味しそうだけどどうしようか悩んでいたら、シリンみたいな見習いの神官がほうきくらいの大きな扇を持ってきて隠してくれた。これならお客さんの前でもじろじろ見られることなくご飯が食べられる。

 ご飯を食べている間は、知らない人の挨拶やプレゼントの目録の読み上げがえんえんと続いた。食事が終わる頃、楽器の演奏や踊りが始まる。昨日と同じだな。今日は危険なことは起きなくて安心する。聖騎士部隊のみんなが護衛してくれているおかげだと思うけど。
 音楽がなっている間に偉い人がお酒を持って挨拶に来る。お酒は全部俺の代わりにアルバートが飲んでくれてた。こんなに飲んでアルバート大丈夫かな。俺は扇で顔を隠して一言挨拶をしたりするだけ。

 日が沈んで始まった祭事はいつまでも終わる気配が見えない。何時間か過ぎた頃、エリンが声をかけて来た。

「かなめ様、今日は長くなりそうです。ここはアルバート殿に任せてお部屋で休みましょうか」
「それはアルバートに悪いよ」
「かなめ様、私のことはお気になさらずお部屋にお戻りください」

 アルバートが大丈夫だと頷く。

「じゃあ王様と王子様に挨拶をしてから」
「それはやめておきましょう」
「やめた方がいいですね」

 エリンとアルバートが同時に口を揃えた。

「疲れたとかそういう理由でこっそり部屋に戻った方がいい。挨拶すると後が面倒です」
「そうですね。かなめ様、私に寄りかかってください」
「手を添えるくらいでいいのでは?」

 アルバートとエリンも睨み合っているけど、さっきの王子様の視線に比べたら全然仲良しに思える。
 俺は眠そうなふりをしてエリンの手にもたれかかった。数人の神官と見習いに付き添われて無事に宴会の行われている庭から抜け出すことができた。
 疲れたふりをしながら視線を落として歩く。そして神官見習いの一人の足首に鎖のようなものが巻き付いているのを見た。
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