転生したら神子さまと呼ばれています

□神子さまの仕事
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 しばらく後、おもちが俺のもとに帰ってきた。口に一輪の花を咥えてる。

「くれるの? ありがとう」

 手を出すとおもちは手のひらにぽすんとおさまった。花はむしゃむしゃ食べている。食べ終わると目を細めて、丸くなって寝てしまった。

 「おもちの能力、すごいね」

 俺が何話してるんだろうって何気なく言ったから、聞いてきてくれたんだよな。でもちょっと落ち込んだ。庭師の娘って、ルーリーさんのことだよな。手は出してないって、キスしてるくせに。アルバートの嘘つき。
 もしかしたらアルバートとルーリーさんが結婚できるようにしてあげたほうがいいのかな。神子と離婚なんて考えられないって言ってたけど、俺がお膳立てしてあげれば幸せな生活ができる気もするし。
 でも、別れたくないな。結婚相手はアルバートがいい。別の人と結婚したくない。わがまますぎるのかな。

「かなめ様、こちらにいらしたのですね」

 ぼんやりしていたら司祭さまが本を抱えてこっちに歩いて来るのが見えた。

「誰も護衛がいないとは。シリンは何をしておるのじゃ」
「シリンは俺が食べた食器を片付けてくれてるよ」
「かなめ様、申し訳ありません。かなめ様を一人にしないよう、離れるときは必ず誰かに引き継がねばならないというのに」
「神殿にはみんないるから大丈夫だよ」
「昨日爆発があったばかりです。すぐに護衛を呼びましょう」

 司祭さまは一人にしたことを謝って聖騎士を呼び、その間俺に本を見せてくれた。
 司祭さまが持っていたのは不思議な生き物をまとめた図鑑みたいだ。パラパラとページをめくってみると、見たことのない生き物でいっぱいだった。この中に書かれている生き物、全部エルトリアに生息してるのかな。

「こちらにガルーダの生態が載っております。ガルーダは雑食ですが、主食は植物や果実のようです。神官を一人、おもちの世話係に任命しましょう」

 図鑑のガルーダは赤と黄色と白色のコントラストが美しい鳥として描かれていた。おもちとは似ても似つかない。おもちって本当にガルーダなのかな。
 図鑑には他にグリフォンやジャターユも載っている。面白そうなので司祭さまに借りていいか聞く。

「もちろんかなめ様のためにご用意いたしました。好きなだけご覧ください。こちらもどうでしょうか。かなめ様は以前の記憶が曖昧だとおっしゃっていたので」

 司祭さまは他に『各国の神子さまと魔法の闇の歴史』という本や『大神殿と神子さまのお仕事』という本も持っていた。これは今一番欲しい情報かもしれない。隙間時間に勉強しようとお礼を言って受け取る。

「かなめ様、これからのスケジュールですが、王族の方々から祭事を行うように通達がありましたので、夜は庭園で昨夜の祝賀祭の続きがございます。お疲れだとは思いますが」
「うん。分かったよ」

 実はさっきおもちを通して聞いたんだよな。

「明日は王宮に移動して祭事を執り行う予定です。それから市内を馬車に乗ってパレードすることになっております」
「パレード⁉︎」
「かなめ様の安全を考えれば本当は中止にするべきなのですが」
「王宮、行ってみたいな。街にも出てみたい。観光名所とかあれば寄りたいな」

 司祭さまは優しく微笑んで、手元の紙にいろいろ書き込んだ。

「かなめ様はずっと大神殿におられたのです。外に出たくなるのも無理はありませんな。護衛の数を増やして対応いたしましょう」
「お願いします」

 明日は街に出られるのか。すごく楽しみ。

***

「かなめ様、今夜の祭事と明日のパレードでかなめ様の護衛をさせていただきます」
「かなめ様、今日も間近で美しいお姿を拝見できとても光栄です」

 夕方前にジャック隊長とアラン隊長がアルバートと一緒に挨拶に来てくれた。今日の護衛は第七部隊と第三部隊がメインで担当してくれるみたい。ジャック隊長はさっきのくだけた雰囲気とは違って、すごく姿勢正しく凛々しくてびっくりだ。アラン隊長も大人の色気がすごい。

「ジャック隊長、アラン隊長、二人ともありがとう」
「まさか私どもの名前を覚えてくださっていたとは」
「もちろん覚えてるよ。ジャック隊長はアルバートの、アラン隊長はヨルグ君の上司だよね」
「かなめ様の記憶力は素晴らしいですね。明日はヨルグも馬車の中でかなめ様の護衛にあたらせましょう。アルバート殿一人では心細いでしょうから」
「アラン隊長、お気遣いなく。馬車は狭いですから一人で十分です」
「アラン、アルバートはこう見えて第七部隊の非常に優秀な戦士で、今は神子さまの信頼も厚い伴侶だ。任せておけば問題ない」
「ヨルグも候補に選ばれている。この国の宝である神子さまを独り占めとはアルバート殿は心が狭いのでは?」

 アラン隊長とジャック隊長、アルバートもみんな笑顔だけど、もしかして喧嘩してる?

「あの、アルバート一人で大丈夫です」

 俺が口を出すと、その場の全員が黙った。アルバートがよく言ったという顔で俺を見る。本当は俺がアルバートを独り占めしたいんだ。

 
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