転生したら神子さまと呼ばれています

□神子さまの仕事
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「ガルーダはかなめ様の使役獣になられたのですね」
「懐いてるから飼ってもいいって」

 使役獣ってなんだろう。ペットかな。
 
「大神殿はかなめ様の住居ですから、かなめ様の好きな方を住まわせればいいんですよ。動物はもちろん植物も全てお気に入りに変更していいと思います」

 シリンが力説しながらテーブルに朝食を並べてくれる。たくさんの色とりどりの料理の横に、かごの中で眠っているおもちがいるので、料理と間違えそう。おもちは俺のもとに来てからずっと寝てる。眠っている時は足を羽毛の中にしまって丸くなっているからますますモチみたいだ。
 キリアン司祭様とエリンはそれぞれ別の仕事をしに行ってしまった。きっとこの先の予定とか、ガルーダの生態を調べてるのかも。

「大神殿って俺の家なの?」
「はい。かなめ様の家です。あっ、でも私や兄や神官たちはここに置いてください」
「シリンはずっと神殿に住んでいるの?」
「はい。エリンと二人で物心ついた頃から神殿で修行をしています。私は見習いですが、早く神官になって兄のようにかなめ様の身のまわりのお世話をもっとしたいです」

 シリンはエリンとそっくりな顔をしているけど、なんとなく見分けがつく。髪型や服装が違うこともあるけど、性格が少し違ってるんだよな。シリンはエリンより思っていることが顔に出やすいと思う。

「物心ついた頃からって、エリンとシリンの両親は?」
「私と兄は嵐の日に地方の神殿に捨てられていたそうです。だから両親の顔も知りません。ここのキリアン司祭さまが引き取って育ててくださいました」

 シリンは暗い過去をなんでもないことのように話した。

「そうなのか。辛いことを聞いてごめん」
「いえ、きっと両親は魔力の高い私と兄を神子さまのために捧げたのでしょう。信仰心の高い両親だと思っています。大神殿ではいつも神子さまのおそばにいられました。それに、私たちが生きているうちにまさかかなめ様がお目覚めくださるとは思ってもいなかったのでとても幸福です」

 そう言ってシリンは照れくさそうに笑った。

 食後のお茶を飲み、おもちをポケットに入れて、今度こそ治療室に行く。寝ていた第一部隊のみんなを一人ずつ診て、呪術の破片を丁寧に取り除いた。隊員たちは緊張していたけど、頑張って治療したのでみんな昼過ぎには起きて動けるようになった。ちょっと治しただけで泣かれたり大袈裟に感謝されて嬉しいけど困ってしまう。治療といっても目に見える鉄みたいなものを取り除いているだけなんだし。それでも治療しているとあっという間に時間が過ぎていく。それに自分で思ったより集中していたのか疲れて、さっき朝ごはんを食べたはずなのにもうお腹が空いていた。

 治療が終わったので、吹き抜けを眺められるソファーで午後の休憩をとる。お腹が空いたことを伝えると、シリンがパンをいくつかと果物、それに香りのいいお茶を準備してくれた。ほんのり甘いパンを胃におさめ、暖かいお茶を飲んでいると、キリアン司祭さま、それにアルバートとジャック隊長が階下を歩いているのが見えた。何か話してる。

「何の話してるんだろうな」
「ピィ」

 ポケットで寝ていたおもちが目を覚まして顔を覗かせた。

「おもち、おはよう」
「ピィ」

 おもちはポケットから出てまっすぐ階下に飛んでいった。あんな短い翼でも器用に飛べるんだと感動しているうちに司祭さまの帽子にとまる。すると驚くほど鮮明に三人の声が聞こえてきた。

「おや、おもちではないか。かなめ様のところにいたのではないのか?」
「ピィ」
「司祭さま、その鳥は?」
「昨日の呪術に使われたガルーダなのだが、かなめ様が呪いを解き、新しい命を与えられたのだ」
「さすがは神子さま、すごいお力だ」
「おもちや、お前の主人はどうなさった。またフラフラ飛んでいるとかなめ様が心配なさるぞ」
「ピィ」

 このはなれた場所にいる人の声が聞こえる能力、もしかしなくてもおもちの力なのかな。三人ともこっちに全然気づいてない。

「ところで先ほどの件だが、やはり王宮の地下牢に移送して尋問するべきだな」
「まさか神官が神子さまを裏切るとは、嘆かわしいことだ」
「裏切ったのではなく、呪術に操られていたのでしょう。身内を人質にとられていたのかもしれません」
「そのような理由があっても神子さまを傷つけるなど絶対に許されることではない」
「サデを滅ぼした呪術師の組織が関わっているか、尋問して調べるしかありませんね。組織を滅ぼさなければ何度でも狙ってくるでしょう」

 なんだか物騒な話をしてる。みんな顔が険しい。呪術師って組織化されてるのか。昨日みたいなことがまた起こったら怖いな。

「だが、王宮から祭事は予定通り行うべきだと通達があった」
「王族はいつでも体裁ばかり気にする。万が一かなめ様に何かあったらどうするのだ」
「仕方がありませんな。午後からの祭事は庭園で行うように準備いたしましょう」
「神殿やかなめ様の警備は倍にした方がいいですね」
「ではそのように」

 キリアン司祭さまがその場を離れたので、おもちが今度はジャック隊長の肩にとまった。

「この鳥はやけにまるいな。魔力は高いが、本当に呪術を持ってないのか」
「たしかに昨日の爆発鳥ですね」
「よく生き返ったな。正直神子の力がこれほどとは思っていなかった。さすがエルトリアを八百年も魔法の風から守るだけのことはある。もちろんお前が一日で全快したのにも驚いたが」
「それには俺も驚きました」

 ジャック隊長がアルバートを肘でつつく。

「ところでアルバート、夜のかなめ様の警備は一人で大丈夫か?」
「隊長、どういう意味です」
「いや、警備を増やすなら結婚相手も複数必要とか言われるんじゃないかと思ってな」
「ああ、ありそうな話でうんざりしますね」
「お前、かなめ様に嫌がられてないか? 今のところ本性を出さずに行儀良くしてるんだろ」
「神官には嫌がられてます」
「かなめ様には嫌がられてないのか。やっぱり顔がいいと得だな。本当のお前は口も悪いし行儀も悪いのにな」
「隊長、怒りますよ。かなめ様の前でも行儀良くしてます。手も出さずに」
「あんな美人を前にして、俺なら手を出さないなんて無理だな。まあ、愛のない結婚だから仕方ないか。お前は幼馴染の庭師の女の子が好きだっただろ」
「昔の話です」

 これ、聞かない方がいい話かも。

「おもち、帰ってきて」

 小さな声で呼ぶと、おもちは一声鳴いてジャック隊長の肩から飛び立った。

 
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