転生したら神子さまと呼ばれています

□神子さまの仕事
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 いつの間にかベッドで眠ってたみたいだ。部屋は陽の光が差し込んでいて、明るくなっていた。朝だ。
 隣でアルバートが座って水を飲んでる。熱はもう下がったのかな。引き締まった背中にはもう血の痕は残ってなくて安心した。ぼんやり見ていると、振り返ったアルバートと目が合った。ちょっと昨日のキスを思い出してシーツに潜り込もうかと思ったけど、一人だけ照れるのも悔しくて平静を装ってみる。

「お、おはよう。熱はどう?」
「下がった。呪術の爆発に巻き込まれて一日で全快したのは初めてだ。お前のおかげだな」
「そう? 良かった」

 アルバートは俺の頬をプニプニとつまんだ。子供扱いされてる気がして振り払うと鼻で笑われた。あまり感謝されてる気がしない。子供扱いなのは俺の方が身長が低いからかな。筋肉もないし、人生経験の差かも。

 アルバートはそのまま顔を洗いに行ってしまった。それからしばらくして戻って来て、俺が昨日食べ残した夜食をつまんでる。異世界の人で聖騎士だし、髪は染めてるわけじゃない茶色で瞳は宝石みたいな緑色、魔法も使えるうえに顔もめちゃくちゃ整ってる。完璧な外見なのに、つまみ食いしている時は俺とそんなに変わらない気がした。

「今日はもう披露宴はないんだよね。俺は怪我したみんなの様子を見に行こうと思うけど、アルバートは?」
「他の聖騎士と協力して呪術師を探す」
「呪術師って強いんじゃないの? 大丈夫?」
「分からないが、探さなければ次の犠牲者が出る」
「そうだよね。気をつけてね」

 アルバートはシャツを身につけると、俺の頭をポンポンと撫でた。

「お前もそろそろ着替えた方がいいんじゃないか? 口うるさい神官がおしかけてくる時間だぞ」

 口うるさい神官って、エリンたちの事かな。

「うん。分かった」

 アルバートが部屋を出て行こうとした時、ちょうどノックの音が響いた。

「かなめ様、おはようございます。起きていらっしゃいますか?」

 噂のエリンだ。タイミングが良すぎて、おもわずアルバートと顔を見合わせて笑ってしまった。

「おはよう、エリン。起きてるよ」

 エリンは颯爽と入ってくると、丁寧に挨拶をした。

「おはようございます。かなめ様、今日もお美しいですね。昨日は残念な事がありましたが、よく眠れましたか?」

「眠れたよ。ありがとう」

「夜食もお召し上がりいただけたのですね。すぐに朝食を準備いたします。その前に身支度を整えましょう」

「夜食はアルバートも少し食べたんだ」

 そう報告すると、エリンはその時初めてアルバートに視線をやった。

「ああ、アルバート殿、起き上がっているところを見ると熱はもう下がったのですか」
「神子さまや神官の皆様のおかげでこの通り全快いたしました」
「そうですか。では他の隊員の方との打ち合わせにでも行かれてはどうでしょうか。かなめ様は私がお世話いたしますので」
「そうですね。万が一昨日のように呪術師が襲って来ても神官の皆様なら大丈夫でしょう」
「昨日のような事にならないよう聖騎士がいるのでは?」
「聖騎士も万能ではありませんので」

「ふ、二人とも落ち着いて」

「かなめ様、失礼いたしました。ああ、アルバート殿、あと一つだけよろしいでしょうか」
「何か?」
「夜食が必要なら私どもにお申し付けください。いくらかなめ様のお相手でも、かなめ様の食事を奪うことのないように」
「それは申し訳ない」

「あ、あの、俺がアルバートにあげたんだ」

 というのは嘘だけど、敵意剥き出しのエリンと作り笑顔のアルバートの戦いが怖くてつい仲裁に入ってしまう。

「いくらかなめ様がお優しくても、アルバート殿は契約で結婚している身です。自分の立場をよく弁えてくださいね」
「かなめ様は私には特別に優しくしてくださるので」

 アルバートはそれだけ言って部屋を出て行った。エリンは露骨にムッとした顔をしていたけど、俺の表情に気づいて笑顔に戻る。

「かなめ様、すぐにお召し替えの準備をいたしますね」

 それからエリンは昨日のように俺の顔を拭いて、髪を梳かしてくれたけど、俺が昨日あまり丁寧に髪を洗わなかったりしたことがなぜかバレてしまってちょっと怒られた。

「かなめ様のお美しい髪がこんなにもつれて」
「ごめん。そんなにぐちゃぐちゃになってる?」
「かなめ様を責めているわけではありません。お世話をしなかった自分を責めているのです」
「髪は伸びるから大丈夫だよ。傷んだら切ればいいし」
「切るなんてとんでもない」
「もうすでに邪魔なんだけど」
「まとめれば邪魔にはなりません」

 エリンは素早く髪をまとめて、金色の飾りをつけていく。昨日とは少し違う髪型だ。すっきりしてるけど、やっぱり飾りが多くて重いし、短くしたいんだけど無理っぽいな。できれば衣装も動きやすいものにして欲しいんだけど、これも無理かな。今日の衣装も無駄にひらひらしてる。
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