転生したら神子さまと呼ばれています

□求婚者たち
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「ふうぅ……」

 変な声が出た。最悪だ。出会ってから恥ずかしい姿ばかり見せている気がする。逃げ出したいような気がするけど、抱きしめられてるし身動き取れない。アルバートの体温が熱くて、髪をくしゃくしゃにされるのもくすぐったい。

「んんっ」

 口の中を舐められるのってこんな気持ち良かったんだ。それともアルバートだから? アルのキスが上手いのかな。頭がぼうっとする。キスが終わったら文句を言ってやろうと思ってたのに、そんな気持ちを挫かれるくらい長くキスされた気がして、唇が離れた時には放心状態だった。

「どうした? まだ足りないとか?」
「ち、違うし! 手って言ったのに……」

 部屋が蝋燭の光だけで良かった。顔が真っ赤になってる気がする。慌てて視線を伏せる。アルバートの整いすぎた顔を至近距離で見続けるのは心臓に悪い。

「嫌なら次からは手にする」
「嫌じゃないけど……」

 うわぁ、咄嗟に本音を言っちゃったよ。俺の馬鹿。アルバートがくすりと笑う。

「でも次からは不意打ちは無しで」
「神子さまがこんなに積極的だと国民が知ったら驚くだろうな」
「自分がキスしたくせに……!」

 頭にきて突き飛ばそうとしたけど俺の力じゃびくともしなかった。俺を見て笑ってる。

「かなめは面白いな」

「もういい! 俺は風呂に入るから。熱が出ても看病してやらないからな!」

 アルバートが手を放してくれたから今度こそ捨て台詞を残してベッドから離れた。エリンの用意してくれた衣装を大急ぎで抱えて、浴室に引きこもる前にちらっと視線をやると、アルは横になってこっちを見て笑ってた。

「どうした? やっぱり身体洗って欲しいのか?」
「違うし! 覗くなよ!」

***

 今日も心臓に悪い一日だった。一人になるとさっきキスされたことを思い出してその場にしゃがみ込む。本当にドキドキした。こんなキスを毎日されたらどうなるんだろう。もしかして、その先の行為もいつかすることになるのか? だって毎日隣に寝るんだし。

 毎日。
 やばい。耐えられる気がしない。一人で病院のベッドに寝ているのは辛かったけど、前世との差が凄すぎてついていけない。毎日キスして隣で寝なきゃいけないなんて。しかも俺、全然嫌がってない。気持ちいいから怖くなっただけだ。アルバートは仕事だって割り切ってるのに、俺はもうすでにアルバートを好きに……なってる気がする。

 考えるのやめよう。
 
 それより呪いだ。
 この世界のことをもっと知って、神子さまの仕事を教わって、誰かを助けることができればいいな。前世ではさんざん病気で苦しんだ俺だから、魔法で誰かを助けられるならそうしたい。

 髪にある飾りを慎重に外してトレーに並べ、服を脱ぐ。布はさらさらして肌触りもいいし、小さい事を除けば下着もまあまあ穿き心地いい。

 お風呂はエリンが言った通り、魔法で適温に保たれていた。昨日はここでアルバートがお風呂に入ってた。筋肉があって、引き締まった身体してたよな……。さっき抱きしめられた時も。

 思い出すのやめよう。
 また恥ずかしくなってくる。お湯に浸かってぶくぶくしていると、部屋で物音がしてビクッとなる。シャワーカーテンみたいな垂れ幕を慌てて引っ張って息をころす。誰もいないよな。
 
 結局髪を洗うのも大急ぎで、エリンが何をつけろと言ったのかも覚えてないし、全部適当に済ませた。お風呂から上がって、用意された下着をあらためて見て絶句する。これ、今日穿いていたパンツよりさらに細くて紐みたいなんだけど。前だけかろうじて隠せる感じ。他に何もないのかな。ない。
 仕方なくそれを穿いて、ワンピースタイプのパジャマを着てカーディガンみたいな上着を羽織って寝室に戻る。

 部屋は暗く、アルバートは眠ってた。額に触ってみる。やっぱり少し熱い。さっきほどじゃないけど。病人なのにあんなキスするなんて聖騎士ってどうなってるんだ。

 アルバートも心配だったけど、エリンが用意してくれたからおせちみたいなご飯を食べることにする。魔法を使うとお腹がすくということが分かった。しっかり食べないと多分治療もできない。

 蝋燭の灯りの中で箱に入った料理を食べ、暗い窓の外を眺めた。料理は暖かくて美味しい。窓の外は暗いけど、ぼんやりとした小さめの月が見えた。なぜか元の世界の月とは違う気がする。その月を見た時、俺は何百年も長い時を彷徨って、ようやくここに戻って来た気がした。前世は俺の中で夢のような位置に落ち着きはじめていた。
 
 俺は多分、八百年前にしなければならなかった事を放棄したんだ。だから、巡り巡ってここに戻ってきた。そんな気がした。でもそれが何なのかよくわからない。神子さまの仕事の一つだろうか。

 少し食事をとって、それから歯を磨いてトイレに行って、髪を乾くまでベッド横の椅子に座っていた。

 アルバートが熱で汗をかいているから布で拭って、それからおまじないをかける。長いまつげ。高くて通った鼻筋。眉間にはシワがよってる。茶色い髪が首に汗で貼り付いてる。
 その長い夜、俺は眠るアルバートの顔をずっと眺めていた。
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