転生したら神子さまと呼ばれています

□求婚者たち
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***

 爆発の後、披露宴は中止になった。王族や貴族にはそれぞれの宮殿やお屋敷に帰ってもらうことになったけど、呪いを目の当たりにしてみんなパニックを起こしていたから大変だったみたいだ。でも聖騎士のアラン隊長率いる第三部隊がうまくおさめて、帰途につく人々を先導や護衛してくれた。
 それから神殿は厳重に封鎖され、出入りする人は怪我をしていない第一と第二部隊の聖騎士がチェックしている。神官たちも浄化や治療にと大忙しで走り回っていた。
 
 俺は大司教のおじいちゃんや司祭さまと一緒に爆発のあった広間を浄化したり、怪我をした第一部隊の隊員の治療にあたったりした。
 一つ発見したのは、針金や糸のような呪いを一つ一つ手で取るのは大変だけど、持っていた扇で撫でれば面白いように消えていくという事。
 扇にはグリフォンやジャターユの毛がくっついているから、怪我をした聖騎士たちには悪いと思いつつ、静電気でホコリを取るモップ感覚で呪いを取って行った。
 テレビショッピングの商品みたいだと思っているのに、隊員たちには泣かれたり感激されたりしてちょっと申し訳ない。それでも扇で呪いをとるとみんなすごく楽になったと喜んでくれた。

「我々はもう大丈夫です。かなめ様、お疲れでしょうからもうお休みください」
「かなめ様、あとの浄化や回復は我々神官が行います」
「かなめ様のおかげで痛みがなくなりました」
「分かった。みんなも今日はゆっくり休んでね」

 レイ隊長たちの呪いもかなり良くなったので、お言葉に甘えて部屋に戻ることにした。怪我をした聖騎士は今日は神殿にある治療室で眠るという話だ。ただしアルバートには部屋があるので自分の部屋にいる。
 アルバートの呪いも払ったと思うけど、全快していないし心配だから見に行きたい。窓の外はすっかり暗くなっていて、廊下でエリンが待っていてくれた。

「かなめ様のおかげで、隊員たちの怪我や呪いも数日で完治しますね」
「本当はもっと時間がかかるの?」
「普段は回復魔法と聖水で治しますが、軽いものでも数週間、重ければ命を落としたり、兵士として復帰できなくなることもあります」
「呪術って大変なんだね。なんでそんな事するんだろう」
「私には理解できませんが、この世界を魔法の闇で埋め尽くしてしまおうという集団がいるのです。他国の領土を減らして滅亡に追い込みたい国もあります。酷い話です」
「ひどいね」
「でも、エルトリアにはかなめ様のような強くてお美しい神子さまがいらっしゃいますから安心です」
「う、うん」

 前世にもテロや犯罪を起こす人は大勢いた。どんな世界でも同じなんだな。

 廊下を歩いていると、司祭さまが慌てて走っているのが視界に入った。

「司祭さま、どうしたんですか?」
「ああ、かなめ様……それが」
「サデの刺客ですか」
「いえ、実は爆発して死んだと思っていた鳥が、まだ生きていたのです。あちこちに呪いを振り撒いて」
「案内してください」

 俺はエリンと司祭様に止められたけど構わず走った。こんな時なのに、もしかして全力で走るの初めてかもしれないって思った。心臓が全く痛くならない。

 地下の部屋を開けると壁際に避難した神官たちと、暴れる鳥が目に入った。暴れてると言っても、ぴょこぴょこ跳ねているのに近い。翼にまだ数本の針金が巻き付いてうまく動けないんだ。羽もくちばしも真っ黒に焼けこげているのに動けるのが不思議だった。

「かなめ様! 触っては危険です!」
「大丈夫」

 きっと痛いんだ。呪いを解こうと暴れてるだけだと思う。酷いことする。
 近寄って両手で包むと、呪いの針金はポロポロと崩れた。呪いから自由になった鳥はブルブルと震え、焼け焦げた羽が落ちていく。それから動かなくなった。
 死ぬ前に呪いから自由になれて良かった、まだ温かいから死んだなんて嘘みたいだと思っていたら、だんだん手の中が熱くなってきた。

「えっ?」

 手の中の鳥が光ってる。黒い羽はみるみるうちに白く、お腹のあたりはピンク色に変わる。そしてまんまるの目をパチリと開けると不思議そうな顔で俺を見上げた。

「生きてる。生き返ったみたい」

 司祭さまとエリンがおそるおそる手の中の鳥を覗き込む。

「これは……ガルーダでは?」
「ガルーダ?」
「魔力の高い妖鳥です。その雛鳥ですね」

 生き返ったガルーダは俺の手の中でピイと鳴いた。そんな大袈裟な名前なのか。白くてまるくてお餅みたいにみえるけど。
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