ポメラニアン魔王

□ポメラニアン魔王
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「魔王様!お逃げください!」

腹心の部下が私に向かって叫ぶ。
頭上からは崩壊する城の破片が降りそそいでくる。
体に深々と刺さった剣を抜こうとしても、魔力が吸いとられていくようで力が出ない。
それは勇者と呼ばれる人間の持っていた特別な剣。
私は最後の魔力を振り絞り、勇者の剣を粉々に打ち砕いた。




ポメラニアン魔王




意識を取り戻した時、私は見慣れない場所に倒れていた。

命はあるようだが、魔力はほんの僅かしか残っていなかった。
かつての美しく強い姿を維持する事もできず、仕方なく獣の姿をとる。
魔力を蓄えれば、いずれ姿はもどるだろう。 いつになるかは分からないが。

しかしここは何処だ?
魔界とはずいぶん雰囲気が違うようだが…。
美食家だが、魔力が無くてはどうしようもない。最初に目に入った獲物を喰らうとしよう。


「…!?」

なんと…ここは人間どもの住む世界か。
実にひ弱そうな人間が隙だらけでこちらに向かってくる。
勇者や魔法使いとは少し出で立ちが違うが、憎い人間に変わりはない。
その若者は、獣姿の私を見て足を止めた。
恐怖にうち震える訳でもなく、その場にしゃがむ。

「こんな所に捨て犬?珍しいな…うわっ」

チッ、私の渾身の攻撃をかわすとは、見かけによらずなかなかやるな。
それとも私がそれ以上に弱っているという事か。

「大丈夫、何もしないから、唸るなよ。お腹すいてるのか?」

おのれ人間め、私を誰だと思っている…。魔界を統べる王だぞ。
その私に対して…。

ぐーきゅるる

「ちょうど腹が減ったからパン買ってたんだ。食うか?」

つべこべ言わずにさっさと差し出すがいい。

「…お前、よっぽどお腹すいてたんだな」

!?
パンに気をとられている隙に、ひ弱な人間が私の背後から体を拘束し持ち上げた。

「キャンキャン(何をする)」

「お前、毛はフサフサだけどやせっぽちだな。飼い主が見つかるまで家にくるか?」

ひ弱な人間にプライドを酷く傷つけられたが、その男の声も腕も、思いの外温かく、失われた魔力が少しだけ戻るのを感じた。

この人間は私をただの獣だと信じて疑っていないようだ。
喰うのはいつでも出来る。
しばらくこの人間を私の下僕として、魔力の供給に使ってやろう。

こうして私の人間界での生活が始まった。
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