ちびドラゴンは王子様に恋をする
□王族と竜
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ついにケネスが王位を継承する日がやって来た。それまでの数日間、監視する兵士は日々増えていって、ヒースの部屋の中ですらピリピリした緊張感が漂っていた。
「おはよう、カル。よく眠れたか?」
「うん」
「不思議だな、緊張してるはずなのによく眠れるんだ」
「俺もぐっすりだよ」
「何か入ってるのかな」
ヒースはいつもより高そうな衣装に着替えながら苦笑した。ヒースを眠らせてるのは俺の魔法だけど、ヒースは食事に眠り薬が入ってると思ってるみたいだ。王城では薬入りの料理なんて珍しくないみたいで、猛毒でも入っていない限り問題視もされないし、国王が命じていれば毒入りでも食べなきゃいけないらしい。王城は閉鎖的で変な場所だ。ヒースが自分のお城に帰りたがる理由もよくわかる。
「眠り薬じゃないよ。俺が子守唄歌ってたの」
「お前の子守唄なんて聴いた覚えがないぞ」
「聴こえない声で歌ってた」
「聞こえないのに子守唄って言えるのか? まあいい、今日で監視生活も終わりだ。今日さえうまく乗り切れば、明日には城に帰れる」
「うまくいくかな」
「祈っててくれ。みんなで城に帰れるように」
「うん」
ケネスの王位継承式は午前中には開始される。王城での戴冠式のあと、王冠をかぶって宝剣を手にしたケネスが馬車に乗って闘技会場までパレード。その後闘技会場では戦いや踊りなどのイベントがあるみたいだ。数日後には貴族を招いて晩餐会が開かれる。日にちをまたいでいるのは、今回の王位継承式が異例の警戒体制で行われているから。
ケネスは戴冠式の直後に、ヒースとエリオットに誓約書に署名するように要求している。もしもヒースやエリオットがそれを断れば、王への叛逆として投獄され、住んでいた城や街への攻撃もあるという話だ。
「エリオットは署名するだろうか」
「分からない」
ヒースが一番心配しているのがこれだった。エリオットが署名せずに反逆者だと言われてしまったら、ヒースは国王ケネスの命令で兄と戦わなければいけなくなる。
宮廷魔道士がついている以上、エリオットには勝ち目がないと言うのが王城にいる大多数の意見だった。それはエリオットとヒースが二人でケネスに対抗しても変わらない。王城にいるエリオットの私兵もヒースの部下も数十人程度しかいない。普段から仲の悪い兄弟同士だから、連携だってとれるはずがない。宮廷魔道士が連絡通路を閉鎖していたのだからなおさらだ。
でもね、ヒース。
俺は心配そうなヒースの横顔を見ながら考える。
エリオットは署名しないと思う。性格もアレだし。それにエリオットには秘密兵器がある。だから式典のどこかで必ずケネスに対抗するはずだ。
俺の目的は一つ、署名なんてさせずにヒースを安全にこのお城から逃すこと。万が一間に合わなくてヒースが署名してしまったら、宮廷魔道士を倒す。そのためにこの数日間、眠らずに計画を立ててきたんだ。必ず成功させてみせる。ヒースのために。