ちびドラゴンは王子様に恋をする

□誓約
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 大通りは群衆で埋め尽くされていた。
 子供たち以外はみんな黒いフード付きのマントを身につけている。俺は持っていないので、クラウスに借りた。ゲイルは人混みが苦手なので家で留守番だ。

 クラウスは女性の姿、つまりクラウディアさんになっていて、黒マント姿に装飾品も控えめにしているのにとても目立つ。どんな姿でも美人は隠せないらしい。みんなちらちらクラウディアさんを見てる。

「カル、もうすぐ王家の馬車がここを通るわ」
「何かしないといけないことってある?」
「馬車が通るときは悲しんだり泣いたふりをするといいわね。王子様を見かけても近寄っちゃダメよ」
「遠くから見るだけなの?」
「あとで連れて行ってあげるから我慢よ」

 そのうち通りの向こうから馬車を先導する兵士や魔法使いが見えて来た。群衆が大袈裟に泣くふりをしたり、声をかけたりしてる。中には本気で悲しんでいる人たちもいると思うけど。

 旗を持った歩兵と、従者、魔法使いが続き、馬に乗った男が登場した。五年前にみたことがある王太子のケネスだ。五年前より顔色は良くなってるけど、相変わらず痩せていて眉間にはくっきりとした皺がある。そのせいか年より老けていて、あまり幸せそうに見えなかった。本当は王様になるのが嫌だとか……そんなことないかな。

 その次に王様の棺の乗せられた大きな馬車が通る。俺の周りにいる人たちが王様に声をかけたり泣いたりし始めた。
 馬車をなんとなく透視してみたけど、やっぱり棺の中の人は死んでるみたいだ。亡くなった人には光がないんだな。棺は氷の魔法がかけてあって、ヒースの魔法だと思うと切なくなった。
 
 次に馬に乗ったエリオット王子の集団が続いた。エリオットがいたことすっかり忘れてた。エリオットはムッとした顔をしてるけど、ケネスよりは若くて強そうに見える。あまり悲しそうじゃない。ちょっと意外だったのは、エリオットを呼ぶ群衆の声に応えて手をあげていたこと。少しだけ王族っぽい。

 それからようやくヒースの姿が見えた。銀の髪に黒いマント。俺の目にはヒースだけが特別に映る。悲痛な表情を浮かべていて胸が痛んだ。ヒース、泣かないで。そばに行きたい。
 前に出ようとしてクラウディアさんに肩をつかまれた。見上げるとにこやかに笑ってるけど、腕の力が強すぎて振りほどけない。さすが五百年生きてる竜だ。仕方ない、見るだけにしよう。
 ヒースに二日会わなかっただけなのに、一年くらいたったような気がする。ヒースの表情から子供の時のような無邪気さが失われていくのが辛い。

「ヒース!」

 声をかけたらヒースが少しだけ顔を上げた。もしかして、俺の声が届いた? でも、声をかけたのは俺だけじゃなくて、大勢の街の人たちがヒースに声をかけて近寄ろうとしたから、背の低い俺は群衆に押し潰されて全然ヒースが見えなくなった。歩兵たちが群衆を押さえているうちに、ヒースは行ってしまった。

 そのあと王族の姫君や親族が馬や馬車に乗って続く。女の人はみんな馬車に乗ってるからシエラの姿は見えなかった。

 王族や貴族の葬列が見えなくなると、後に続いて墓所まで歩く民と、家に帰る民に分かれた。みんないろんなことを話してるけど、話題の中心は三人の王子と、その中の誰が王位を継いだらいいかという話だった。

「クラウディアさん、俺たちはどうするの?」
「そうね、疲れたから帰って食事にしましょうか」

 美しい女性の声で話す言葉とは別の、クラウスの声が頭に響いた。

(今なら王宮の警備が手薄だ。侵入するなら今だな)
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