ちびドラゴンは王子様に恋をする

□王族の付き人
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 ケセルジュの魔法学園で働くことになって何日も過ぎた。季節は緑の草の月から風と雨の月に変わった。

 庭園の石運びからスタートした俺の仕事も、洗濯場、屋外の掃除、外壁修復作業、食堂といろいろな所を転々とし、今では学生たちの校舎を掃除している。トムも同じ掃除係だ。でも俺は時々、庭園の監督官に頼まれて力仕事を手伝ったり、おばちゃんに呼ばれて洗濯場に行ったり、いろいろな仕事をかけもちしている。おかげでみんなに顔を覚えられ、食堂でご飯をもらったりおやつをもらったりと可愛がられている。働くのは大好きだし、ご飯も大好きだし変身にも人間との共同生活にも慣れて毎日楽しい。
 
 雨が多くなったせいで洗濯場では従業員の服の洗濯は後回しになり、みんなちょっと汚れ多めのヨレヨレの服で働いている。俺が手伝いに入ると何故か服がよく乾くとおばちゃんに笑われ、たびたび呼ばれるけど、俺がこっそり魔法で洗濯物を乾かしていることは気づかれてないみたいだ。

 校舎を掃除していると、時々ヒースに会える。ヒースには付き人はいないけどやっぱり取り巻きがいて、イザベルや知らない貴族みたいな学生がいつも数人周りをかためていた。
 そんなヒースを遠くから眺める。最初は会えるだけで嬉しかったのに、今では少し胸が痛む。もっと近くで毎日姿を見たい。
 たまに俺に気づいたヒースが遠くから手を振ってくれることがあった。嬉しいけど、ヒースといつも一緒にいる貴族の男子生徒がいて、その生徒は友達みたいに親しい雰囲気で、羨ましくてしかたない。
 俺も人間だったらなぁ。そして貴族で同じ教室で勉強できたら良かった。学生がいる間は教室には掃除に入れないし、廊下でも向こうから歩いてきたら邪魔しないように道をあけて目立たないようにしていないといけない。

 悩みはもう一つ。
 エリオットが赤毛の従業員を探しているらしいという噂が従業員の間で広がっていた。初めてそれを聞いた時にはぎょっとした。やっぱりあの時の記憶は完全には消せなかったみたいだ。
 しかも、シエラ姫も俺を探しているという。だから二人がいそうな時は極力姿を消して逃げ回っていた。普段は帽子や布を巻いて赤茶色の髪を隠しているから(本当は角が出てもばれないように)遠くからは分からないはずだ。
 探しているのがエリオットということもあり、従業員の間に不思議な連帯感が生まれたのか、誰も俺のことを話さなかった。エリオットに目をつけられて怪我をして仕事を辞められたら、力仕事をする労働力が減るからだと思う。

***

 その日俺は偶然、普段滅多に入ることのない書庫の掃除を担当になった。
 書庫の整理をしていた教師がしばらく王都に行っているので、書物の整理と掃除が間に合っていないらしい。掃除担当の女性の監督官に教えられて、山積みの本を仕分けすることになった。

「文字は読めないと思うけど、表紙の最初の文字が同じ物を集めてちょうだい。貴重な書物だから破ったり汚したりしないように。ここにある物を二、三日中に片付けてもらうわ。あなたは力持ちだと聞いてるからできるわね」

 書庫の整理か。やったことない作業だけど楽しそうだな。俺、書くのは下手だけど文字は読めるし。早めに片付けて、ジークさんにおすすめの本がないか探してみよう。
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