ちびドラゴンは王子様に恋をする
□山小屋の主
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白い雲の中に浮かんでる。空は飛べたけど、こんなに高くまで飛べたことなかったな。ここはどこだろう。
雲の中をプカプカと漂っていると、遠くに建物が見えた。白っぽい建物で、目立つ装飾もないスッキリした建物だ。建物に近づいていくと、そこは思ったより大きくて騒がしい事に気づいた。雲の中から伸びる階段には、人の姿をした者がほうきを持って掃除をしているのが見えた。
階段から何人か上ってきて建物の中に入って行くのも見えるし、空を飛んで建物に入ってくる人たちも見える。
ここ、来たことがある。ここはあれだ。たまごの中に生まれる前に行列に並んでたあの場所。
俺はやっぱり死んじゃったのか? まだ何もしてないのに。
階段で掃除をしていた白っぽい人が、雲の中の俺に話しかけて来た。
「おかえり。ドラゴンは珍しいね。長命の代表みたいなドラゴンでもはやく帰ってくることもあるんだね」
「あの、まだ帰りたくないんだけど」
「そうなのかい? 確かに君はまだ雲の中にいるから、戻るつもりなら戻れるかもね」
「本当か? それなら帰る」
「新しい命も悪くないよ。ここでしばらくゆっくりして、以前のことは忘れたらどうだい?」
ヒースの顔を思い出した。俺が死んでしまったら、泣くんじゃないかな。きっと大泣きだ。ヒースは優しいから、いつまでも悲しんでくれると思う。ジェイソンがいるけど、大人だからヒースとは一緒に寝てあげないし、夜に泣いてるヒースの涙を舐めて、暖めてあげる存在が必要だ。
「やっぱり帰るよ。まだドラゴンでいたいんだ」
「そうかい。それじゃまた今度おいで」
掃除をしていた人は、ほうきの先で俺の頭を雲の中に沈めてくれた。ここの従業員、やることが荒っぽいんだよな。
白い雲の中からどんどん深い所に沈んでいく。雲はすぐに灰色になり、そして暗い灰色から光が完全に届かなくなって真っ暗闇になった。