ちびドラゴンは王子様に恋をする

□別れ?
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 祭典のある前日、俺はヒースと街の中心部に向かう馬車の中にいた。王宮とヒースの城とではそこまで距離が離れていないみたいだ。朝出発すれば昼過ぎには到着するらしい。もっと田舎なのかと思っていた。
 ヒースと同じ馬車には俺専用のカゴも乗せられていたけど、今はヒースの膝の上にのっている。

 今回は俺も何故か王城に呼ばれたので、俺はいつもと違う格好をしていた。服を着ているのだ。城を出る前に世話係のおばちゃんが俺に着せてくれた。服を着ると人間に近づいた気がする。ただ、俺には背中に翼があるのでお腹と胸の部分に布を巻いて背中で結ぶような服になってる。つまりエプロンだな。前世では昔話の赤ん坊が着ていたような記憶がうっすらある。何故か服を着ている時の方がちょっと恥ずかしい。ベストみたいな服にしてもらえば良かった。

 「カル、これはヒース様の小さくなった服をほどいて仕立て直したのよ。これを着ていれば、お前が王子様の大事な竜だってことがわかって、いじめられたり恐れられたりしないと思うわ」
「キュイー」

 おばちゃんありがとう、と言ったつもりだったけど、相変わらず俺の喉からはいつもの鳴き声しか出なかった。それでもおばちゃんには伝わったはずだ。鏡で見たけど、自分でもけっこう似合ってると思う。ヒースのお古だから匂いもついていて嬉しい。

 馬車はお城を出てからしばらくは田舎の土の道をすすみガタガタと揺れていたけど、そのうち音が変わった。道が石畳に変わったみたいだ。
 俺は馬のカポカポという足音が大好きだし、初めて王城に行くので興奮していたけど、俺とは逆にヒースは沈んでいた。頭を撫でる手が時々止まる。

「キュ?」
「カル、絶対にいい子にしてるんだぞ」

 昨日からこれを繰り返し言われてる。俺はいつでもいい子にしてるぞ。

「人を傷つけちゃダメだ。身分の高い人は特に。それから俺の側を離れないで」
「キュイ」

 俺は絶対にヒースのそばを離れないぞ。言いつけも守る。ヒースの立場が悪くなったら嫌だからな。そう思って頭をヒースのお腹にこすりつけ、尻尾をふりふりしても、ヒースの浮かない表情は変わらなかった。

「そろそろ王城だ。カル、この中に入って」

 ヒースの膝が良かったけど、大人しくかごの中に入る。今回のかごは移動用の蓋付きだから、蓋をされたら周りが見えない。せっかくの王城なのにな。

 目を閉じて周囲の様子を探る。馬車の周りには群衆がたくさん。といってもモノクロの光しか見えないけど。馬車の通る道の両端に本当にたくさんの人がいる。馬車を見に来たのかな。
 「王子様!」
 誰かが馬車に叫ぶ声もあちこちから聞こえた。

 そのうちに馬車は石畳の道を進み、大きな石の門を通り抜ける。これが王城かと思ったら違った。似たような門がその後三つもあった。門を通るにつれて人が少なくなり、最後のトンネルみたいな門を通ってようやく馬車は止まった。

 ここは広いな。歩いている人の動きに規則性がある。多分今度こそお城の敷地内に入ったと思う。止まった馬車に何人か近づいてくる。

「ヒース王子、ようこそ王城へ。国王陛下がお待ちです」

 知らない声がそう告げると、俺の入ったかごは従者の誰かに抱えられた。そのまま全員で建物の中に入っていく。モノクロだからどんな外観なのか分からないけど、とにかくヒースの城よりずっと大きいという事だけは分かった。
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