ちびドラゴンは王子様に恋をする

□別れ?
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 適度に揺れるかごの中でうとうとしているうちに、中途半端な広さの場所にやって来た。床に置かれて目が覚める。

「ヒース、しばらく見ぬうちに背が伸びたな」
「父上、お久しぶりです。兄上も」

 周りを確認すると、部屋には人間が六人いた。真ん中の椅子に座っているのが一人。声と場所から判断してこれが王様だな。つまりヒースの父親。
 その隣にもう一人誰か立っている。ヒースが兄上と言ったけど、エリオットじゃない。もう少し背が高くて、顔は見えないけど声は落ち着いてる。ヒースやエリオットに比べて弱々しい光だ。どこか具合でも悪いのかな。

「魔法の練習を頑張っていると聞いているぞ」
「はい。祭典ではこれまでよりずっと難しい魔法をお見せできると思います」 
「そうか。それは楽しみだ」

 親子にしてはよそよそしい会話が続く。はやくここから出してもらえないかな。そわそわしてかごの中でぐるぐる回っているうちに、話題が変わった。

「ところで先日、ターニャ妃からこのような不満を聞かされてな」
「何でしょうか」
「お前の城を訪問して面倒を見ていても、お前がターニャやエリオットに逆らって生意気な態度ばかりとっていると」
「……」
「そのうえ隠れて竜を飼育しているという話も聞いた。将来エリオットや自分を竜に攻撃させるつもりではないかと危惧しておったぞ」
「そ、そんな事……!」

 エリオットの髪の毛を燃やしたことを根に持ってるのかな。ちょっとだけなのに。

「もちろん、ターニャ妃はあの性格だ。思い込みの激しいところがある。お前がそのようなことを企んでいないことはよく分かっているのだが」
「そんなことは考えてもいません。生意気な態度だと思われたのなら今度お二人に謝ります。
 竜のことも誤解です。たしかに竜の卵を拾って育てていますが、竜……カルはまだ子供で、力も弱く魔法も使えません。この間も湖に住む蛇に食べられそうになったばかりで、気が弱くて怖がりなんです。人を攻撃したこともありません」

 ヒースの中での俺が非力すぎる。食べられそうになったのは本当だけど。

「しかしヒース、竜は成長するとかなり身体が大きくなり、強い力を持つと言われている。魔法が使えなかったとしても、巨大な魔獣を城で飼うわけにはいかないだろう? 近隣の民も不安になるだろうし」

 ヒースの兄が続けた。

「カルはいい子です。僕の言うことをちゃんと聞いてくれます。今だって、言いつけを守って大人しくしています」

「そのかごの中にいるのかね?」

 なんだか周りがざわついてる。部屋の中の人が増えたぞ。最初六人だったのに、二十人くらいに。

「ヒース、開けて見せてくれないか」
「はい」

 ようやくかごが開けられて、新鮮な空気が入ってきた。かごから顔を出すと、槍を持った複数の兵士と、その後ろに守られるようにしてこちらを見ている王様と兄上の姿が見えた。王様はちょっとヒースに似ているな。でも想像したより年上だ。髪の毛にかなり白髪が混ざってる。お兄さんは地味な顔立ちで、痩せていて背が高い。髪の色もヒースには似ていない焦茶色だ。

「キュイ」

「なんと……」
「本物の竜か」
「ずいぶん小さいな」
「これでは大した攻撃力にはならんな」

 みんなが好き勝手なことを言ってる。兵士が槍の刃をこちらに向けているけど、とりあえずあくびをしてかごに寝そべった。周囲の緊張感が少しやわらぐ。変なことなんてするはずないだろ。非力さをアピールしてさっさとヒースとお城に帰るんだ。
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