1week

□L金曜日午後1時
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「ちょっと待てシュウヘイ、その冗談は笑えないぞ」

うぉ!?
ルーシェンが俺の襟首を掴む。
目が本気だ。何か逆鱗に触れたらしい。

『すみません。王都は自分で探します』

「王都はあれだ」

ルーシェンの視線の先には蜃気楼が見えた。
まさかあれが?蜃気楼じゃないのか?

「王子、この男は何者ですか?」

無表情部下がやんわりとした口調で、でも鋭い視線を俺に向けたまま、会話に入ってきた。

襟首を掴んでいたルーシェンが表情を緩め、俺を引き寄せる。
近いぞ。

「ああ…彼は、俺の命の恩人だ」

『はじめまして。私の名前は岬修平です』

「まさか…名字と名前、異世界人ですか?」

俺の自己紹介に熱血部下が驚く。

「アーク、それはトップシークレットだ!」

「しまった!申し訳ありません、王子」

「お前が驚くのも無理はない。俺も驚いた」

…他にシークレットにするものがあるだろ。

「王子の命の恩人でしたか。それは失礼いたしました、ミサキ殿」

無表情部下の口調が丁寧になった。
でも目は笑ってないな。

『気にしないでください。運が良かっただけです』

「シュウヘイは謙虚なんだ」

「王子がデレていらっしゃる…」

膝まづいていた部下二人が、珍しいものを見たというように顔を見合わせて呟く。
ルーシェン、どれだけ堅物で通して来たんだよ。

『あの…悪い魔法使いを捕まえなくていいんですか?』

自己紹介してる場合じゃないだろ。
俺の質問に、場の空気が再び険しくなる。

「シュウヘイ、俺達は今から魔法使いアルマの住む領地に向かおうと思う。危険だからこの先の戦いにはお前を巻き込みたくない。だが、お前にどうしても礼がしたい。王都に向かっているのなら、到着後に王宮を訪ねてくれないか?」

『お礼はいりません』

どうせすぐに元の世界に戻るし。
大金もらっても逆に切ないだろ。

「そんな事を言わずに、必ず訪ねてくれ」

『時間があれば訪ねます』

「約束だぞ」

『約束はしません』

もう安易に約束なんてしない。
今だって時間ギリギリだし、俺は如月と日曜に交わした約束を後悔しているんだ。
でもルーシェンは、俺の言葉を肯定的にとったみたいだ。

「王子の俺が礼をしたいと言っているのだから、シュウヘイが気にする事は何もない。魔法使いの領地までは飛竜ならすぐだし、相手がいくら優れた魔法使いでも、今は油断しているはずだ。こちらにも、魔法の得意な信頼できる味方がいる。シュウヘイが心配しなくても、すぐに片がつくと思う」

『…分かりました』

ああー俺ってダメだな。
これでルーシェンが時間に間に合わなかったら、こっちに八年いるパターンだろ。
…康哉に会えたら相談しよう。

気づかれないようにため息をつくと、機嫌が直ったらしいルーシェンが手を差し出してきた。

「シュウヘイ…もう一つ頼みがある。お前のお守りをもう一度貰えないか?」
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