1week

□L金曜日午後1時
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八年こっちに住むのか…。
八年も姿を消したらどうなるんだ?
完全に存在を忘れられるのかな。
康哉が俺を連れだしたから、康哉に殺人容疑か何かがかかったりするかも。
いや、頭のいい康哉なら世間の目なんて簡単にごまかせるだろう。
前から完全犯罪とか出来そうなやつだと思ってたんだ。

八年もあるならもう一度オッサンの動物村に寄って、ラウルに会いに行ってもいいな。あいつ別れる時泣いてたし…。
ネックはラウルの村に行く途中で、花カブトの沼を通らなければいけない事だ。

それからリックの宿にも今度こそ泊まろう。
滝の見える部屋に泊まってみたい。友達のよしみで宿泊料金を安くしてくれるかも。

そんな事を考えながら、リュックから携帯電話を取り出す。
魔法村の中ではずっと止まっていた携帯はきちんと動いていて、時刻は午後2時をさしていた。
良かった。ちゃんと使えるみたいだ。

あれ?

金曜日?

日付が変わっていない。
最後に如月から着信があったのが午前9時すぎだ。
五時間しか経ってないなんて、そんな馬鹿な。
確かに俺は村の中で二晩過ごしたぞ。
一日目は酒を飲んで歌って騒ぎ、二日目はルーシェンに襲われたから確実だ。

『ルーシェン…時間が』

経っていません、と続けようとしてそれに気づいた。

上空に小さく見える五つの飛行物体。
ベージュの体にエメラルド色の鱗、太陽の光を反射して輝く翼、騎乗する兵士達の独特のジャケット。
あれは…地方の傭兵たちの憧れ、王都の飛行部隊だ。
砦で間近で見て興奮したから間違いない。
ひときわ目立つのは先頭を飛ぶ白い竜だ。
カッコイイ。

「飛竜!ヒヤッホー!」

叫んでいるうちに飛行士逹はこちらに近づいてきて、近くの草原に見事に着地した。
白い竜には誰も乗っていない。

「エスト」

ルーシェンが白い飛竜に近づき首を撫でても、尻尾で払われたりはしなかった。
飛竜は首をすり寄せてルーシェンに甘えるような仕草をする。
ベージュの飛竜から飛び降りた兵士達が、ルーシェンの元に駆け寄ってきた。

「王子!よくぞご無事で…!」
「お探しいたしました」
「いったい今までどちらにいらっしゃったのですか…!?」
「すまない。心配をかけたな」

兵士二人がルーシェンに詰め寄り、残りの二人が膝をついて頭を下げる。
一人は泣いてるみたいだ。
そっか…そういえばルーシェンって王子だったな。
忘れてた訳じゃないけど、部下がいる姿を初めて見たから新鮮だ。慕われてんだな。

俺は空気を読んで少し離れた場所に移動する。
同じように空気を呼んだ(または飛竜を警戒した)ケビンが、俺の近くにくっついてきた。

再会を喜ぶルーシェンと部下達。
嬉しいんだけど…。

「なんか、さみしいな。ケビン」

ケビンに同意を求めると、ケビンは鼻をならした。
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