1week

□L金曜日午後1時
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ケビンは、水からあがる俺を横目にもくもくと何かを食べていた。
よく見れば、ケビンの周りには餌が点在している。俺が買って村の入り口に蒔いておいた保存食だ。
まだあったのか。そして感動の再会より餌優先か…。

海には砂浜なんてものはなく、いきなり陸地になっていた。
数十メートル先に、見覚えのある崖と森が見える。
俺が落ちた崖だな。
村と城があった場所は、なにもない草地と海になってる。

ルーシェンが少し遅れて海からあがってきた。

『手、大丈夫ですか?』

折れたんじゃなかったのか?
それとも異世界の人は傷の治りが早いのか?

「大丈夫だ。治癒魔法を使った」

『魔法?』

「ああ。シュウヘイ、どこか痛む所はないか?」

『…ないです。ルーシェン魔法使えるんですか?』

「村の中では封じられていて使えなかったんだ。久々だからコントロールが難しい」

そう言って笑うルーシェンからは、心なしか今までにない余裕が感じられた。
分かったような分からないような話だけど、深く考えるのはよそう。
腕が治って良かった。

海の水を飲むケビンを、ルーシェンが不思議そうに見ているので紹介する。

『ラクダのケビンです。一緒に旅をしています。ケビン、ルーシェン王子です』

「そうか。毛長ラクダとは珍しいな」

ケビンは相手が王子でも、変わらない態度で水を飲んでいる。

その後点在している餌を広い集め、使えそうなものだけリュックに詰めた。
ルーシェンは濡れたジャケットとシャツを脱いで、草むらに座りこんでいる。
ぼんやりと海の向こうの蜃気楼を眺めているみたいだ。
魔法で傷は治っても、精神的に疲れたんだろうな。
俺も濡れたマントとジャケットを脱いで、ルーシェンの隣りに座る。

『村から出られて良かったです』

改めてそう言うと、ルーシェンも頷いた。

「シュウヘイはどうして分かったんだ?最後の…あれが罠だと。俺は全然気がつかなかった。完全に、騙されていた」

『私には最初から分かっていました。怪しい匂いがぷんぷんしました』

ほんとは身代わり人形のおかげだけど、これくらい言ってもいいだろ。

「…シュウヘイはすごいな」

『ルーシェンもまだまだですね。ハハハ』

「そうだな」

恐怖から解放されて、ナチュラルハイになってるらしい。
ルーシェンと二人で顔を見合わせて笑い、そのまま草むらに寝転ぶ。
ケビンが水を飲むのを止めて、俺たちのそばに寝そべったので、手を伸ばして触れる。
うう…毛皮がモフモフだ。

村の外は暖かい風が吹いていて、鳥の鳴き声も聞こえる。
自由って最高だな。

『ルーシェンはこれからどうするんですか?』

「…」

『ルーシェン?』

返事がないので、起き上がって顔を覗きこむと、深い青い目で見つめ返された。

「王位を捨てて、知り合いの誰もいない場所に行こうか。シュウヘイの住んでいる世界、とか」

『え…?』

絶句すると、初めて会った時と同じ表情で笑われた。

「…冗談だ。そんなに驚くな」
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