1week
□L金曜日午後1時
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『冗談なのは知ってます』
からかわれてちょっとムッとする。
驚いたのは本当だ。
ルーシェンの口癖は「立派な王になる」だから、俺の世界に来たいなんて本気で思っているわけない。
でも逃げたくなる気持ちも分かるな。
魔法の村みたいな性格の悪い罠を創り上げてくる敵がいたんじゃ、俺だって逃げたい。
『魔法の村が無くなったこと、創った人は分かるのですか?』
何て名前だったっけ?あの銅像の女の人。
「…もちろん気づくだろう」
ルーシェンは起き上がって蜃気楼を見つめた。
「俺が生き延びた事に気づいたかどうかは不明だ。次の手を打ってくる前に、捕えなければならない」
そう言うルーシェンの顔からは笑みが消えていた。
現実逃避するのを止めたんだろうな。
そう思うと、ちょっとだけ切ない気分になる。
こいつは俺とそんなに年が違わないのに、王子に生まれたというだけで、俺には想像できないほど重い物を背負っているんだからな。
冗談でも、俺の世界に来いよ、って言ってやればよかったかな…。
『…そういえば、朝ルーシェンは手紙を残していました』
無言になったので話題を変える。
せめて俺といる時くらい、嫌なことを考えないですむように。
ルーシェンが俺に書き残してポケットにいれておいたはずの紙は、今探っても見当たらなかった。
村と共に消えてしまったみたいだ。
『あれは何て書いたのですか?読めなかったので教えてください』
「…あれは…もういいんだ」
ルーシェンが赤くなっている。相当くさいセリフだったらしい。
『教えてください』
「助かったのだから、もういい。忘れてくれ」
そう言ってルーシェンは立ちあがると、少し離れた場所に向かった。
そして鞘にしまったままの剣で空中(と地面)に文字のような物を描き始めた。
あわせて何かブツブツ言ってる。
おお!まさかこれはリアル魔法使いの呪文詠唱ってやつじゃないのか!?
ゲームでこんな感じの動きがあったぞ。
違うのか?杖じゃなくてもいいんだな。棒なら何でもいいのか。
何が起こるのかわくわくして見つめているのに、ルーシェンは呪文を唱えるのをさっさと終了し、俺のそばに戻ってきた。
炎も上がらないし、何も起こらないぞ。
『今の何ですか?』
まさか戦士のラジオ体操的なものじゃないだろうな。そうだったら殴る。俺のわくわくを返せ。
「ああ、相棒を呼んだ」
相棒!?
『私の他に相棒がいるのですか?』
と言うとルーシェンは目を丸くした。
『冗談です』
相棒か。いいなぁ…。
魔法で連絡を取り合う相棒。
如月みたいに魔法陣で移動して来るんだろうか。
そういえば、俺も如月に連絡取って間に合わなかった事を謝らないと。
康哉…もう元の世界に戻っただろうな。
「…八年!」
「どうした、シュウヘイ」
『いや、何でもありません』
俺も現実を思い出した。