dream

□涙がこぼれるその前に
1ページ/1ページ






「監督の奥さん!すっごくきれいな人だったんだ!!」




天馬がうれしそうに話してた。

監督の、奥さんの話を。

過呼吸が起きるくらい動揺して

手足が震えて、立って居られなくなった。







目が覚めたら、白い天井が見えた。

「保健室……」

初夏のまだ涼しい風がカーテンを揺らしているのに、

この部屋の空気のように私の気持ちは穏やかではなかった。

「っ……なんでっ」

なんであたしは中学生なんだろう。

なんで大人じゃないんだろう。

なんで監督に最愛の奥さんがいるんだろう。

天馬がきれいな人って言うからにはすごくきれいな人で、

監督が好きになるくらい素敵な人なんだろうな……


視界が涙でぼやけかけた時だった。

保健室のドアが開いた。

「あ、悪い。起こしたか?」

監督だった。

「かん、とく……」

監督がカーテンを開けて、ベッドの横に置いてあったパイプ椅子に腰をかけた。

「無理させてたみたいで、ごめんな」

「無理なんて、全然」

なんで監督が来たんだろう。

なんで音無先生じゃないんだろう。

間違って、勢いで好きって言っちゃいそう。

喉まで出てきたそれが口から出てしまいそう。

「    です」

「え?」

「大丈夫ですから。監督は、みんなのところへ
行ってあげて下さい」

今できる精一杯の笑顔で監督をグラウンドへと促す。

早く出て行って。

心がざわざわするから。

これ以上居られると、優しくされると泣いてしまう。

だから……







涙がこぼれるその前に








‐‐‐‐‐‐
(あいつ、泣いてたな)


消えそうな声で囁いた告白は届かないまま


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ