dream
□涙がこぼれるその前に
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「監督の奥さん!すっごくきれいな人だったんだ!!」
天馬がうれしそうに話してた。
監督の、奥さんの話を。
過呼吸が起きるくらい動揺して
手足が震えて、立って居られなくなった。
目が覚めたら、白い天井が見えた。
「保健室……」
初夏のまだ涼しい風がカーテンを揺らしているのに、
この部屋の空気のように私の気持ちは穏やかではなかった。
「っ……なんでっ」
なんであたしは中学生なんだろう。
なんで大人じゃないんだろう。
なんで監督に最愛の奥さんがいるんだろう。
天馬がきれいな人って言うからにはすごくきれいな人で、
監督が好きになるくらい素敵な人なんだろうな……
視界が涙でぼやけかけた時だった。
保健室のドアが開いた。
「あ、悪い。起こしたか?」
監督だった。
「かん、とく……」
監督がカーテンを開けて、ベッドの横に置いてあったパイプ椅子に腰をかけた。
「無理させてたみたいで、ごめんな」
「無理なんて、全然」
なんで監督が来たんだろう。
なんで音無先生じゃないんだろう。
間違って、勢いで好きって言っちゃいそう。
喉まで出てきたそれが口から出てしまいそう。
「 です」
「え?」
「大丈夫ですから。監督は、みんなのところへ
行ってあげて下さい」
今できる精一杯の笑顔で監督をグラウンドへと促す。
早く出て行って。
心がざわざわするから。
これ以上居られると、優しくされると泣いてしまう。
だから……
涙がこぼれるその前に
‐‐‐‐‐‐
(あいつ、泣いてたな)
消えそうな声で囁いた告白は届かないまま