Novel
□透明
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「黒子っち歩くの速いっスよ〜!もっとゆっくり歩いてほしいっス!」
マジバを出て通いなれた道を歩く。
黒子の後ろからは必死に黄瀬がついてくる。
「どうして僕がゆっくり歩かなきゃならないんですか?」
「えええぇ…そこ質問するんスか…だってそりゃ…」
ようやく追いついた所で黒子の刺々しい問い掛けに、若干言い淀む。
「速く歩いちゃったら黒子っちと居る時間短くなっちゃうじゃないっスか…マジバにもうちょっと居るのもよかったっスけど二人で居たかったし…」
素直に答えるのが恥ずかしいのか足元をみながら話す。
その様子を見て黒子は微笑んだ。
「すみません。ちょっといじわるしすぎました。顔をあげて下さい」
「え…?黒子っちめちゃめちゃ怒ってたんじゃないんスか?」
「怒ってないですよ。でも少しからかってやろうと思って不機嫌なふりしてたんです」
「そんなぁ!オレてっきりデートドタキャンしたこととかドッキリでマジバ来た事に怒ってんのかと思って!」
「怒ってないです。だって仕事ならどうしようもないし、連絡がなかなか取れないのも分かってます。マジバまで来てくれたのはすごく嬉しかったですよ」
普段表情の崩れない黒子がにこりと笑っている。
それを見て黄瀬は心底安心したのか、はぁ〜っと溜め息を吐いた。
「しっ心臓に悪いっスよぉ〜っ」
なよなよと雪崩れ込むようにして黒子に正面から抱きつく。
身長に差があるせいで黒子は黄瀬に埋もれてしまう。
「ふふ、でも火神くんとこそこそ手を組んでたのにはイラッときました」
「それはすませんっス…でも黒子っちがヤキモチしてくれてんなら嬉しい…っス」
「調子に乗らないで下さい。ところで黄瀬くん、そろそろ帰りませんか?」
「ええー!?今超いい感じになってたのに!?」
さっきまでの幸せが一気に吹き飛び、黄瀬は眉根を寄せた。
「こんな道端でいつまでも抱き合ってるわけにはいかないでしょう?早く僕の家に行きませんか?」
「…………………へ?」
自分の腕の中で黒子がとんでもないことを言った気がしたので、抱き締める力を緩め黒子の肩を掴む。
すると真っ直ぐに自分を見る色素の薄い目と視線が合う。
「今日、僕の両親親戚の家に行ってていないんです。もしよければ泊まりませんか?」
「!」
「僕も二人になりたかったので早く帰りたかったんです…でも黄瀬くんの都合が悪ければ無理にとは、」
と言いかけたとこで黄瀬に鼻を摘ままれた。
「ほんとイジワルっスね……」
黒子っちに誘われてオレが断ると思ってんスか…
鼻を摘まむ手を払う黒子に黄瀬は小さくキスを落とした。