桜色


□窓の外の歌声
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いつだったか。
俺がまだ(年齢が)小さくて、入院していたとき。
毎日が限りなく退屈で、
外に出ることの出来ないこの体を毎日恨んでいた。

でも、家族にも心配をかけたくない。
薫には尚更…
だから、大人しく病院のベットに横たわる。
でも、怖がり(だった)な俺は、夜はどうしても苦手だった。

「……帰りたい」

俺はベットにうずくまって、声を殺しながら泣いていた。
―――しばらくすると、窓の外から声が聞こえた。
オバケかと思って、より一層布団にかけている手に力がこもる。
でも…

「…歌?」

聞こえていたのは歌だった。
きれいな歌声で、聴いていると不安が消えていく。
そんな感じがした。
どんな曲だったかは覚えてない。
それよりも、声が心に響いた。

「誰が歌ってるんだろう…」

次の日、気になったので看護師さんに聞いてみると、1つ上の階の部屋ということが分かった。
屋上で歌ったりと、気が付いたらどこかで歌っているらしい。
俺は看護師さんに頼んで、その病室に連れていってもらった。

「…はじめ、まして」
「はじめまして」

そこにいたのは、同い年くらいの一人の女の子だった。
俺は名前を聞くのすら忘れて、気が付いたら、歌ってと頼んでいた。
彼女は少し驚いたみたいだったけど、にっこり笑って歌ってくれた。

それから俺は、許可を得ては彼女の元に向かった。
それでも俺は心臓が悪いから、彼女の方が良く来てくれていたことが事実だった。
俺達は、毎回飽きもせずに歌を歌い合っていた。

「なぁ、お前ってどんな病気なんだ?」

俺はある日、ふとこんな質問をしていた。

「…特に大きい病気って訳じゃないの。
ただ、体が弱くて、ちょっと…ね」

彼女は、少しだけ悲しみの浮かぶ笑顔で答えた。
見ているこっちが辛い。
でも、歌っているときの彼女は、特別輝いていた。

「…すげぇなぁ」
「何で?」
「だって、病気なんて普通なら怖いだろ?
なのにお前は笑ってる。その上、楽しそうに歌ってる」
「歌うことは楽しいよ!!
…それに、いつ止まっちゃうか分からない心臓なのに、暗くしてたら人生が無駄になっちゃう気がするの」

妙に大人びたその言葉に、俺はそうだと素直に思えた。
俺は今まで、怯えてた。
だから、彼女の言葉に俺は(恥ずかしいけど)感動した。

「…私、アイドルになりたいんだ」
「アイドルに?」

彼女は突然、窓を見ながら語りだした。

「うん。
私みたいな人でもアイドルになれるって。
元気になれるってみんなに伝えたいの!!」

彼女の目は、希望に満ち溢れていた。
俺はその目をそらすことができなかった。
側で応援したい、一緒に夢を追いかけたい。
俺は無意識にそう思った。

「……じゃあ、俺もアイドルになる!!」

俺は自然と言葉に出していた。

「一緒にアイドルになろうぜ!!」
「ほん、とう?」
「あぁ、本当だ!! 約束な!!」
「うん、約束だよ!!」

俺達は、ゆびきりげんまんをした。
彼女の目は、喜んでいるはずなのに、潤んでいた。

「…ねぇ、名前、教えてくれる?」
「あぁ、言ってなかったか。
俺は来栖翔!! お前は…?」
「私は……       」

別れを告げるとき、彼女は今にも泣きそうだった。
次の日、彼女は来なかった。
退院だと聞いた。

==========

幼少時代です。
こんな主人公にしたはずではないのに…
翔の初恋は終わりました…

ここから、翔のアイドルへの熱意が始まった(と考えていただきたいです!!)。


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