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□狂王・娃篦の来訪
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「ふふふふ…これが赤軍民奴隷制度というやつか。あいにく我が国にはそのような制度はないのでな…可愛らしい奴隷だ。うちにつれて帰りたいくらいだな……」
なめ回すように見つめ、娃篦は続ける。
「うちの秘書は皆、図体ばかり大きくてなぁ…私は君のような幼い子が大好きだというのに……」
その奴隷は寿だった。寿はおぞましい容姿を晒しニヤニヤと笑いながら顔を近付けてくる娃篦が恐ろしくて仕方なかった。
―助けて、亜蘭様。怖い…
そのとき寿の前に人影が現れ、彼と娃篦の間を一気に隔てた。
「…貴様は誰だ?」
「王様、大変僭越ながらこの者は私の所有物でございます。勝手に触れないで頂きたい」
その言葉に場の空気が凍りついた。
「ば、ばかっ、お前何言って…」
「手前勝手な言動は止しなって…」
皆、亜蘭へ囁きかけるが、彼は無視して言葉を紡ぐ。
「手をお離しください。これは私の所有物と申し上げたのですが、下位の者の言語は王様には理解できませんでしたか?」
小馬鹿にしたような物言いにさすがの娃篦も怒りを露にする。
「無礼者め…興が冷めたわ。部屋へ案内しろ。まさか私の部屋がないとは言わさんからな」
「ま、まさかっ。ご案内いたしますよ」
すっかり腰が引けてしまった元老院達は立場を弁えなかった亜蘭を一瞥し、娃篦を連れて広間を後にした。
「ほんっとぉ〜亜蘭、ビビらせないでよ!」
「俺、寿命が縮まったわ…」
広間に残った者達は口々に安堵の声を洩らす。
「…亜蘭様…その……」
寿が亜蘭を心配そうに見上げる。自分のせいで亜蘭が…
しかし亜蘭は寿を冷たく突き放した。
「お前が気にすることじゃない。私は今から所用で出るから、先に帰っていろ」
「…わかりました……」
部屋に戻った寿は唇を噛みしめた。
―亜蘭様…絶対怒ってる。僕のせいだ。僕があそこにいたから…
「ごめんなさい…」
いつもそうだ。亜蘭をイライラさせたり怒らせたり。恐らく亜蘭は自分を疎ましく思っているだろう。
「耐えられません…亜蘭様……あなたに、嫌われるなんて…」
―あなたが僕の全てだから。
そのときだった。
「―――っ!?」
背後から布で鼻と口を塞がれた。ツンとした刺激臭が寿の鼻孔を麻痺させる。
「う………ん……」
景色が白んで何も見えない。意識が遠のいていく中で寿は、昼間のあのおぞましい顔をもう一度見た気がした。