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□揺らぐ決意
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臣の心は緋那多に移り始めていたのだ。
李鵜琵は臣の変化について、最初は嬉しく思っていた。
―最近、臣が明るい。
しかし何事にも限度というものがある。臣の近頃の緋那多への入れ込みぶりは目に余るものがあった。
「臣、あまり緋那多ばかりに絡んでいると、李鵜琵が寂しがらないか?」
正解とも間違いとも取れる噂を流した張本人である凛もそれは懸念していた。
「別に…そんなつもりはねぇよ」
臣は臣で、色々悩んでいた。いつの間にか李鵜琵から緋那多に心が移ってしまった自分の節操のなさに、悶々とした日々を送っていた。
しかし好きになったものは仕方ない。こればかりはどうしようもなかった。
―李鵜琵には、お前だけとか言っちまった。俺はどうすればいい?
今更「緋那多が好きになりました」などと言えば、李鵜琵は何をしでかすか分からない。
臣の、李鵜琵だけを愛する、という決意は揺らいでいく一方だった。
相変わらず臣が緋那多の元に通い続けていた、そんなある日だった。
部屋を出ようとした臣は李鵜琵に呼び止められた。
「どこいくの?」
そう問う李鵜琵の目は明らかに怒りを浮かべていた。
「どこって…」
「そっちは折檻部屋だよ?折檻部屋になんの用があるの?」
「だから…」
臣が口ごもると、李鵜琵は途端に臣に抱きついた。そして思いのたけをいい募る。
「なんでっ!?最近帰ってこないし、帰ってきても相手にしてくれないしっ……また、姿鬼のとこ?緋那多に会うの?」
「…ああ」
「ねぇ、なんでよ!?僕じゃなきゃダメって言ったじゃん!僕以外とは馴れ合わないって言ったじゃん!なのに…なんでなの!?」
「…悪い、李鵜琵。俺、緋那多に話あるから」
「臣!」
臣はなかば振り払うようにして李鵜琵の手をほどくと折檻部屋の方に向かって歩き出した。
「なんで…待ってよ、臣っ!臣ってば!」
臣は李鵜琵に何度も名前を呼ばれた気がしたが、努めて気にせずに歩を進めた。
「臣…臣の…ばか…」
独り取り残された李鵜琵がぽつりと呟く。そして力なくその場座り込んだ。
「僕…臣に、嫌われちゃった…?」
地面に水滴がポタポタと落ちた。
李鵜琵はその水滴が自分の目からこぼれ出たものだとは気付かず、拳を床に何度も叩きつけた。床が血に染まり、それでも李鵜琵はやめなかった。やめられなかった。
「…臣に嫌われちゃったら…僕、生きてる意味…ないじゃん…」
僕は臣の奴隷なのに―――――