Long
□交錯する迷いと劣情…
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「…だがな、いくらなんでも、これはやりすぎだ、姿鬼」
姿鬼が片眉を上げる。
「―なんだと?」
「やりすぎだっつったんだ。聞こえなかったのか?いくら奴隷でも、せめて人間として扱ってやんのが道理じゃねーのか?」
至極真っ当な意見。しかし姿鬼はクスクスと笑い出した。
「全くお前はバカで能天気だな」
「あ?」
「そんなに気に入らないならこの城から出ていけ。お前のような甘い主人は必要ない。余計奴隷共を混乱させるだけだ」
それは聞き捨てならない言い分だった。
「わりぃが、お前だけには言われたくねえ。俺はここの生活には、自分なりに満足してんだ。お前みてぇな異常な性癖持った変態にはわかんねえだろうがな。ま、俺も人様のこと、言えた義理じゃねぇけど…」
「フン。阿呆の考えることは理解に苦しむ。俺は一刻もはやく貴様が視界から消えてくれることを願っている。」
「残念だがその願いは叶わねえからなっ」
臣はガンッと音をたてて扉を閉めると、がむしゃらに走り出した。
李鵜琵を奴隷としている時点で自分には姿鬼のやり方に意見する資格はなくなる。いくら李鵜琵自身の意向とはいえ、していることにそんなに違いはない。
けれど言わずにはいられなかった。
「っ…なんなんだ、どいつもこいつも」
こんなに感情が昂ったのは久しぶりだ。
臣が去ったあと、姿鬼は緋那多のもとにゆっくりと歩み寄り、彼の顎をつかんだ。
「良かったな、緋那多。お前を心配してくれるものがいるぞ。奴隷を案ずる愚かな馬鹿がいるぞ…?」
姿鬼は動けない緋那多をうっすらと嘲笑い、拘束を解いた。
「あ…姿鬼…俺は、いらない子…?」
「そんなわけあるか。緋那多、お前は一昨日から飲まず食わずだったな…来い」
姿鬼は、親しい者や気に入った者を「お前」という二人称で呼ぶ。
緋那多の、「貴様」から「お前」に変化した愛称。
姿鬼の中でも確実になにかが変わり始めていた。
姿鬼は緋那多の前に水入りの瓶を掲げた。
「緋那多、水だ。飲みたいか?」
一昨日から何一つ口にしていない緋那多はしきりに頷いた。
姿鬼は水を床に垂らした。そして、垂らし終えると緋那多に命じた。
「ほら、はやく飲め…」
緋那多は間髪入れず、床の水を舐め始めた。四つん這いになり、その姿はまるで家畜のようだった。
やがて全てを舐めきった緋那多は姿鬼を恐る恐る見上げた。