Long
□完全支配、そして…
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豪の勝手な言い分にムッとした臣だったが、大して気に留めずに受け流す。
「話は以上だ。では、解散してくれ」
元老院の号令で皆バラバラに席を立つ。
―そのときだった。
本会議室の扉が開き、先程議題に出された姿鬼本人が無言で入ってくる。瞬間的に空気が凍り付く。
姿鬼は常人には近寄り難い、独特の雰囲気を纏っている。そのため同じ調教師でも皆が彼に話しかけることは稀だった。
「…元老院、遅くなった。私用が出来たもので、少し出ていた。」
「あ、あぁ…まぁ、構わんよ。話は以前からお前にしていた。内容は分かっているな?ならば今日はもうよい」
「そうか。では失礼する」
姿鬼が出ていったあと、皆はほっと胸を撫で下ろした。
「ああ〜こわかったぁ!僕ほんとあの人苦手なんだよねぇ…」
「…たしかに近付き辛いのも分かる」
豪の呟きに調教師の1人、亜蘭(アラン)も頷く。
―俺からすりゃ亜蘭、お前も十分近寄りづれぇよ…
亜蘭は他人には無関心だ。自身の奴隷、寿(コトブキ)にもてんで関心を示さず放置しているため、寿の方が寂しがるほどだ。
「これは…一雨来そうだな…」
よくわからない不安感を胸に抱きつつ、臣は姿鬼が消えた扉の方を見つめていた。
―――その夜
静まり返った折檻部屋に1人、来客があった。
「…おい、起きろ」
その者は、柱に縛りつけられ身体には鞭や蝋燭責め、さらには鈍器のような物で撲られたような、痛々しい痕跡を残している少年に近付いた。
「…っ」
目を覚ました少年は、無言ながらも姿鬼を見上げるとキッと睨み付けた。姿鬼は無表情のまま、少年の顎をブーツの尖った爪先で持ち上げた。
「…貴様が、緋那多か?」
―コクリ
緋那多という少年は無言で頷く。目は相変わらず姿鬼を警戒し、つり上がっていた。
「今日から俺がお前の主だ。来い」
姿鬼の言葉を聞いた見張りの男が緋那多の身体を拘束から解き、立ち上がらせた。
緋那多は言葉こそ発しないものの、自分に逃げる術がないことを理解している、聡明な少年のようだ。抗うことなく姿鬼についていった。
805号室―――姿鬼の部屋にて。
「緋那多、貴様の寝床はここだ」
姿鬼は部屋に入ると、緋那多を奥へ連れていった。緋那多の寝床―それは冷たい鉄の床の上だった。