Long

□暖かい光
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「亜蘭様、お二人をお連れしましたよ」

門の前で空を見上げ佇んでいる亜蘭に寿が声をかける。

「ありがとう、寿。二人とも…これはまた随分と華やいだ格好だな」

亜蘭は詠と由摩を見るなり吹き出した。

「亜蘭さん!笑うなんてひどいです〜。由摩なんかやっとの思いで着てくれたのに」

詠の言葉に亜蘭が由摩を見ると、彼は離れた場所で恥ずかしそうに俯いていた。亜蘭は少し申し訳なさそうに謝る。

「すまないな。君はともかく、由摩がこういう格好をするのは珍しいものだから」

"行こうか"、そう言うと亜蘭は歩き出し、それに他の三人も続いて城下町の方に道を下っていった。



「わあっ、すっごーい!」

詠は店の棚に並んだ数々の色鮮やかな商品に心を踊らせる。無邪気な笑顔を見せる彼に寿がある疑問を口にした。

「詠さんは、緑弦ではこういった場所へは行かれなかったのですか?」

すると詠は急にしんみりとした表情を浮かべ、こう答えた。

「僕は…子供の頃から英才教育を受けてて、朝から晩まで休みもなく勉学をやらされてばかりで家から出してもらえなかったから、こんなとこ来たことなくて…」

「そうだったのですか…ごめんなさい、過去を蒸し返させるようなことを…」

「いいんだ!寿くんは気にしなくても。それに今は亜蘭さんや寿くんのお陰で僕も由摩も楽しいよ。ね、由摩…?」

由摩を振り返ったが、いない。

「あれー?どこ行っちゃったの!?」

慌てふためく詠を見た寿はクスッと笑いを洩らし、二軒先の店を指差した。

「由摩さんはあちらにいらっしゃいますよ、詠さん」

寿の差す方には、店の硝子張りの棚に置かれた美しい装飾の髪飾りをじっと眺める由摩の姿があった。
胸を撫で下ろす詠の横をすり抜け亜蘭は由摩に歩み寄ると尋ねた。

「それが欲しいのか?由摩」

「い、いえ…欲しいなどではなくて…」

「まぁいい。今日はお前のためでもあるのだからな。少し高価だが…買ってやる」

亜蘭の言葉に由摩がキラキラと目を輝かせる。

「よろしいのですか!?」

「それほど欲しかったのならはやく言えば良いものを…」

亜蘭は支払いのため、店に入っていく。そこへ詠と寿がやってきた。

「由摩っ、何してるの?」

「亜蘭様が、僕に髪飾りを買ってくださるそうなので…」

嬉しそうに答える由摩に詠が怒ったような表情になる。

「僕に言ってくれれば買ってあげたのに」


「だって、これは…」

「由摩」

言いよどむ由摩のもとに会計を済ませた亜蘭が駆けよってくると、買った品を手渡した。

「ほら。目的はなんとなく分かっていたがな。自分で渡せ」

そう言いながら亜蘭はポンと由摩の背中を押した。受け取った由摩は照れくさそうにそれを詠に差し出す。

「これを、僕に?」

「はい。詠様にはお世話をしていただいてばかりで…ですから、ほんの気持ちです。…最も、僕はお金を持たないので、正しくは亜蘭様からの贈り物なのでしょうが」

詠はふるふると震えた。今にも溢れそうな涙の粒が揺れている。

「ううん…嬉しいっ、ありがとう由摩ぁ!大好きだよ!」

詠が泣きながら由摩に飛び付く。由摩が詠の背中をさすり、詠はさらに由摩の肩に顔を埋めて泣いた。その光景を亜蘭と寿が温かく見守っている。

「いいですね…こういうの」

「ああ。由摩があれほど嬉しそうに笑ったのは初めて見る。寿」

亜蘭は寿の名を呼ぶと、彼に向き直った。

「お前も何か欲しいものがあれば買ってやる。何でも言え」

慕って止まない主人の言葉に寿は最高の笑顔で微笑んだ。

「ありがとうございます!」



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