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□残酷な通達
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「では近況報告を終える。…そして今日はもう一つ報告がある」
定例会議での元老院の急な言葉に皆、ザワザワと騒ぎ出した。
「なんかあったのかな〜?」
「まさか…解雇とか…?」
「いや、それはねぇだろ」
色々なことを口々に囁き合いながら元老院の次の言葉を待つ。
「報告というのは他でもない。本日付で新しい調教師を雇うことになった。緑弦からの優秀な者と聞いている。皆、よろしくするように」
緑弦は藍国の隣の国で、周辺諸国には珍しく藍国と友好関係を築いている。
―それから、と元老院は声を低くして信じられないような言葉を口にした。
「これに伴い、調教師を一人解雇することになった」
―は、?解雇ぉ?
―え…まじだったの?
―待ってよ、そんな急には…
どよめきたった空気を鎮めるように元老院は続ける。
「骸、お前を解雇する。まぁ黄安の掟に従い、お前はこれからもここに住まうことが可能だ。ただ解雇、だ。由摩の調教師は新人に任す」
皆、驚いて声も出ない。二つのことが皆を盛大に驚かしていた。
一つは、骸の解雇について。
そしてもう一つは、いつも落ち着き払った笑みを崩さない骸が動揺していることについて。
「ご、ご冗談を…なぜ私が?」
見苦しい程に慌てふためく彼に、姿鬼と豪が意地の悪い笑みを浮かべて言った。
「骸くんさ〜、何オドオドしてんの?君、大層ユー坊のこと嫌ってたみたいだし、いい機会じゃん。ねぇ?姿鬼くん」
「最もだな。まぁ、俺達が決めることではないが…な」
これ以上の騒ぎは不毛だと判断した元老院が会議を締める。
「骸、理由は聞くな。お前を追い出す訳ではない。…では解散してくれ」
皆すぐには解散できるはずもなく、各々が何かを考え込んでいるようだったが、やがて骸自身が口火を切った。
「みんなを混乱させてしまい、本当にごめんね。もう決まったことだから、従うまでだよ…」
「で、でも…」
凛が言いよどむ。それが彼の逆鱗に触れた。
「今色々なことを言わないでくれないかっ?こっちにもわけがわからないんだよ!」
骸は会議室の扉を力任せに閉めると、走り出した。
「…ふざけるな……由摩を渡せ?…はっ、ふざけるなよ…」
ボソボソと呪文を唱えるかのように呟く彼の姿はまるで何かにとり憑かれた亡者のようだった。