Long

□信じる者だけが見えるもの
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「ここは…賢神城…?」

不思議と安心感で満たされていた。

―帰ってきたんだ…っ

「気が付いたか?」

向こうから誰か歩いてくる。その姿を見たとき寿の目から大粒の涙が零れ落ちた。

「亜蘭様…なのですか……?」

寿は確かめるように彼の身体に触れる。奴隷が主の身体に無断で触れるなどあり得ないことだが、今の寿の脳内にそんな知識はないも同然だった。

「亜蘭様だ…やっと、会えた…亜蘭、様……っ」

唯唯、亜蘭の存在を触れた手で感じていた。

「私は…お前に謝らなければならない」

亜蘭が口を開く。そして、何を言われているのか分からずきょとんとしている寿をそっと抱き寄せた。

「ど、どうなさったんですか…?」

寿は突然のことに状況が読めていない。そんな彼の目を亜蘭は真っすぐに見つめ、ゆっくりと話を始めた。

「お前がいなかった間、私がどれほど喪失感に苦しんだか、分かるか?」

寿は目を見開いた。今まで存在自体をないがしろにされていた彼には、喪失感とは自分に対する言葉と取っていいのかどうかわからなかったからだ。

「僕がいないことで…喪失感を感じたんですか…?」

「そうだ。…私には過去にお前と瓜二つの奴隷がいたことがあった。しかしそいつは私に入れ込みすぎ、私なしでは生きられないまでになってしまったんだ。そして最期…」

そこまで言うと、亜蘭は一旦目を閉じた。そして寿の頬を愛しげにさすりながら、再び口を開いた。

「最期、そいつは狂い、私にすがりついた。…そこに偶然物が倒れてきてな。結局、私と心を繋げることができぬまま、そいつは私をかばい、死んだんだ。」

「…それで…僕を避けて…?」

「そのとおりだ。あんな思いはもうたくさんだ。私のせいで命を失うものがいたことは今までの人生で最大の痛手だった。だから、他人と関わらなければあんな事態は免れると…そう信じていた。」

亜蘭の瞳から滴が落ちた。それはあとからあとから溢れ、ついにはとまらなくなってしまった。

「勝手な私情でお前を苦しめた。けれどお前を失い、お前という存在の重さを実感した。お前でなければ駄目だと思った。」

寿はうっすらと濡れた目で亜蘭を見つめ、そして彼の頬を伝う涙を唇で拭い取った。

「―っ!?」

「僕も、あなたに謝らなければならないことがあります」

驚いている亜蘭と自分と、両者の胸に深く刻みつけるように寿は言う。



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