Long
□消えない傷
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緋那多は身なりを整え部屋を出ると寿の部屋へ向かった。
「寿…大丈夫、かな…」
先刻の行為せいでいろんな場所がズキズキと疼く。緋那多はその度にうずくまった。
「あっ…いた…ぃ」
―まだ姿鬼の熱が残ってる。
ジワジワ責めるような疼痛が気持ちよくてたまらない。そして甘い痛みは姿鬼が自分を愛する証。緋那多は今ここでも達っしてしまいそうなほどの興奮を覚えた。
「…だめ…早く、寿のところへ行かないと…」
緋那多は自分を奮いたたせると、立ち上がった。
―コンコン
ノックをするが返事がない。
「寿…いないの…?」
相変わらず無反応だ。不安になって扉に手をかけてみる。そして部屋の中を見た緋那多は息を呑んだ。
「…なに、これ…?」
中は荒らされていた。多少暴れた痕跡も見られる。もちろんそこに寿の姿はない。そして何より衝撃的だったのが
「これ…寿の、着物…」
地面に無造作に脱ぎ捨てられていたのは昼間、式典で寿が着ていた美しい着物だった。所々裂かれているが、緋那多にはそれだとすぐに分かった。昨日の夜、彼と会ったとき、
『亜蘭様が、くださったんですよ…僕もう嬉しくて…』
と本当に嬉しそうに話していた。
なのにそれが今、床に無惨な姿で捨てられている。敬愛する亜蘭からもらったものを寿がこんなに手酷く扱うはずがない。それに、亜蘭に忠実な彼が勝手に部屋から出ていくはずもなかった。
「寿…っ、どこ…行ったの?」
緋那多は消えた友の名を呼ぶ。しかし友の声は聞こえてこない。真っ青になった緋那多は自身の主の元へ駆け戻った。
「姿鬼っ…たいへん…寿が……」
自室に戻るなり、緋那多は息を切らして姿鬼に飛び付いた。
「どうした?何かあったか…?」
ただ事ではなさそうな緋那多の様子にさすがの姿鬼も少し驚いて聞き返す。
「いないの」
「いない…?寿が、ということか?」
「そう。部屋が荒らされてて…俺、どうしたらいいか、わからないよ…っ」
緋那多は取り乱すあまり、姿鬼の胸にすがりついている。
「主がいないということはよくあるが…奴隷となれば、話は別だ」
姿鬼は緋那多の顔を両手で包みこみ、真っ直ぐにその目を見つめた。緋那多が常軌を逸して興奮しているときに姿鬼がする宥め方だ。こうすると緋那多は大人しくなる。
「…姿鬼…寿、どこ行ったの…?」
嗚咽をこらえながら緋那多は聞いた。