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□二章:異国からの来客
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「今月末に遠路遥々、笙国の王がお見えになる。失礼のないように、十分留意してくれ」
この日の定例会議で皆、元老院達からある報告を受けた。
―最南端・笙国からこの最北端・黄安へ来客など何百年ぶりか。
そして、この来客によって賢神城が大きく動乱することになるのを誰が想像しただろう。
ここは調教師・亜蘭とその奴隷・寿が住まう部屋。
朝から何やら外出の準備をする主に寿は恐る恐る声をかけた。
「あ、あの…亜蘭様っ」
「なんだ?」
「ど、どこへ、お出かけになるのですか?」
「お前が知る必要はない」
けれど亜蘭はそっけない返事で会話を無理矢理終わらせる。
「も、申し訳…ありませんでした…」
寿は自分の方を振り向いてすらくれない主へ深々と辞儀をする。
この二人の会話はいつもこうだった。
寿が必死で探して見つけた話題にも、亜蘭は一言ぞんざいな返事をするだけだった。彼は寿に対して主らしきことをしたことはなく、全くの放任主義であった。そのため寿はいつも溢れんばかりの悲しみと寂しさを抱えていたのだ。
「あ、あの…今日は晴天ですよっ」
寿は少しでも亜蘭と話していたくて、急いで話をふった。
「…知っている」
「こんな日に、花を見るのなんか…良さそうでは、ありませんか?」
「…何が言いたいのだ?」
寿は口ごもる。花が大好きな自分にとっては大切な話題。しかし主にとってこの話題は、果たして面白いものだろうか…
「あの…だから…鞠桔梗が、咲いているので、良かったら御覧に…」
鞠桔梗とは賢神城の研究部員が改良に改良を重ねて生み出した美しい蝶のような赤い花である。
「…考えておく」
そんな寿の言葉に亜蘭は相変わらずの様子で答え、今日の予定を告げる。
「私は今日は夜遅くまで戻らない。お前は先に寝ておくように…わかったな?」
「……はい」
この人と話したい。笑い合いたい。そう思うのに、寿にそれはかなわない。彼は肩を落とし、自分に背を向けた主を見送るのだった。
「亜蘭〜」
廊下を歩いていると、奴隷の斬を連れた豪が手を振っている。無視していると、彼は亜蘭に駆け寄ってきた。