Long
□揺らぐ決意
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しばらくは何も起きず、至って平凡な日常が続いていた。
そんなある日―
「ん?」
散歩に行こうと自室から出た臣は廊下をキョロキョロしている人物を見た。
その人物とは、全裸で痣だらけ――緋那多であった。
「ひーなたっ」
臣は声をかける。
「何してる?散歩か?」
「い…いや…ちがうけど…」
はっきりしない返事に首を傾げながらも、臣は再び優しい声で聞いた。
「じゃぁ、何してんだ?」
すると緋那多は恐る恐る臣に近寄り、こう言った。
「姿鬼の部屋は…ここ、ですか?」
―姿鬼の…部屋?
「いや、ここは俺の部屋。姿鬼の部屋はもう一階上にあるだろ。忘れたのか?」
「俺…外に出たことないから…」
なるほど。姿鬼の許可を得て城内をうろついていたのだ、緋那多は。このままにしておくのもかわいそうなので、臣は緋那多を姿鬼の部屋まで案内することにした。
「へぇ、赤銘ってけっこう楽しそうなとこなんだなぁ…」
道中、臣と緋那多は雑談に花を咲かせていた。
「赤銘は…俺の恩人。俺は赤銘が、好き」
「じゃあさ、赤銘に帰ろうとかは思わないのか?」
緋那多は少し考え込み、「思わない」と答えた。
姿鬼の部屋付近まで来たところで臣が意外そうに相槌を打ったとき、姿鬼が部屋の前で立ち往生しているのが視界に入った。
「ほら、ここだぜ、姿鬼の部屋」
行きな、と臣が背中を押すと緋那多は姿鬼に駆け寄った。
「…どこへ行っていた?」
「帰れなくて……道に…迷ってた」
「なぜそいつと共にいる?」
「臣がね、連れてきて…くれた」
姿鬼は臣へ向き直り、ご苦労だった、と軽く労った。
「さっさと中へ入れ、緋那多」
「はい」
緋那多は振り返り様に臣に柔らかく微笑むと手を振り、姿鬼と共に扉の向こうへ消えていった。
その日を境に臣と緋那多は急速に仲を深めていった。臣が来ると、緋那多は眩い程の笑顔を見せてくる。それが可愛くてしかたなかった。
来る日も来る日も二人は会い、笑い合った。
城内ではすでに噂好きの凛が二人の仲について勝手な憶測を周りに広めていた。
ただし、緋那多の本命は姿鬼だ。それだけは緋那多の心が移ろうことはなかった。姿鬼が黙っていたのは、緋那多が自分を裏切るはずがないことを分かっていたからかもしれない。
しかし、臣は違った。