無題
□この世界
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「ポチー!よかったあ!」
サイズが小さくなり可愛らしくなったキメラを飼い主が抱き抱える
場所は早乙女情報事務所。
俺達の職場であり雇い場所であり家であり居場所である所
仕事内容は様々で、今回のように暴走したキメラを止める事も含め、ペットの捜索から浮気調査まで手を出している。
「大事にしてくださいよ?首輪ちゃんとつけて、巨大化なんてされちゃ今度は怪我人が出るかもしれないですからね」
「はい。お世話になりました!」
飼い主は接客用のソファから立ち上がり、にこりと一礼して事務所の扉から外へと駆け出る。
「はぁ…。今回はマジで死ぬかと思った。」
「捕まえるならともかく、無傷で
返すって言われたらねー」
部屋の奥から裕が現れ、さっきまでお客さんが座っていたソファに気ダルそうに座る。それを見て半ば呆れたようにため息をつく
「誰かさんのせいでそれは叶わなかったけどな」
「先に殴り飛ばしたのは晃太じゃない。」
「バズーカ打った奴に言われたくない。というか、バズーカあったんならヤバイ状況になる前に使えよな」
「仕方ないよ。使ったら即予算オーバーだったんだから。晃太のせいで」
「う…。」
返す言葉もない。
というのは、キメラを捕らえるために罠なり火薬なりを準備したのは俺である。その時点で予算ギリギリ。それで捕まえられたんなら苦労は無いが、逃がすという失態も犯してしまった
「バズーカの弾だってタダじゃないんだよ?」
「わかってるよ」
こいつがバズーカを出し渋ってたのはこういうことだ。
決してあの状況を楽しんでいたわけではない。
予算が足りなかったのである。
そうであってくれ!
「火薬13800円。罠5400円。バット1000円。プラス、火薬爆破、罠の処理等、街の損害賠償542000円。計562200円。
わかってんだろーなぁ…お前ら………」
部屋の奥から更に、そろばんを弾きながら腰まで長い髪をしたスラッとした美人の女性が頭を抱えながら歩み寄る。
心なしか、背後に般若が見えるのは気のせいだろう。気のせいであってほしい。
「貴姐…っ!いや、これにはほら、深そうで浅ぁい訳が…」
「何度も何度も仕事の度に街を破壊するわ依頼主の予算オーバーするわ…店を潰す気か!!!」
「す、すんません!!!」
まるで人を食い殺すかのような迫力で手に持つそろばんを握りつぶす。
「あ。そろばんの105円。」
「あー!しまったぁぁぁ!」
砕け散ったそろばんを一つ一つ拾い上げる。さっきまでの勢いはどこへやら、裕の些細な一言に両手を地に付け黒いオーラを放つ。「105円…今月でそろばん壊すの4回目だから420円の損失…………」とぶつぶつと呪いのような言葉を泣きながら呟いている。
そんな可哀想な貴姐を眺めているとツンツンと肩をつつかれた
「?」
「…。」
裕がいつもの無表情で外へとでる扉を親指で指す。俺は納得するようにぽんと拳を手に叩き、二人でそっと事務所を抜け出し、廊下へ出ると共にダッシュで走り抜けた。
「ナイス裕!」
裕は表情を変えず親指を立て応える。
その直後、廊下に響いた貴姐のお叱りの叫びは聞かなかったことにしよう。