黒兎

□朝焼け
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「薙ーー、ちょっとこっち手伝ってくれ」


「はーい」



早朝。


しばらく居候させてもらうことになった伊坐薙は、ただで泊まらせてもらうのは悪いと思い、家事の手伝いをしていた。


草履を鳴らしながら竿に洗い終わった洗濯物を次々に干していく。

そして干し終わった洗濯物の間から、呼ぶ声に反応して伊坐薙は顔を出した。


縁側に登ろうと草履を脱ごうとしたとき、ふと思い立ち止まる


「……………俺、なにやってんだろ」


確かに居候させてもらってる身ではあるし、仕事を手伝うのに抵抗があるわけでもない。しかし、このままでいいのかという不安が胸のあたりで黒く渦巻いている。



「おい薙、早く来てくれぇ!」





すると遠くから呼ばれる声にはっと顔を上げた。

「……」

伊坐薙はふっと笑みを零す。


「今行くよー!!!」







──────────
──────


───










「………どうしてこうなった。」



数時間後。



右手にはカゴ。左手にはメモ。


そしてここは


「へーいらっしゃぁい!」
「安いよ安いよー!!!」



町の中心にある市場である


そこら中に人が賑わい、呼び込みが声高らかにあちこちから聞こえる

あまりの人の多さに圧倒され、入口からまだ動けずにいた



「………うわぁ…」


市場の人たちと自分との温度差である。

あのあと、呼ばれた##NAME01##は、近藤から笑顔で紙とカゴを渡され、沖田弟からにやにやと笑われこの市場にやって来た。

つまり、お使いだ。


「お使い………」

紙を握る手に力が入る



「お使いって何だ?」









朝市の真っ只中。大勢の人が賑わう中、##NAME01##はごくりと息を呑んだ。


おつかい


生まれて此の方、父親は居るものの、独りで生きてきた##NAME01##はこれまで一度もお使いというものを経験したことがない。

はじめてを前に##NAME01##はうーんと唸った



「あれだよな、お使い。聞いたことはあるけどつまりあれだよな。買ってもって帰りゃいいんだよな。この紙のリストのものを。」


なんだ、簡単じゃん。


ふぅと息をついて、##NAME01##は改めて紙を見た。


・お米10キロ
・焼酎2升
・芋
・人参
・マヨネーズたくさん


「·················。」


たくさん·····?


「まぁいいや。」


考えることを放棄した方がいいと判断し、##NAME01##は紙をしまい人混みの中へと一歩踏み出した。






「お、あった八百屋…………お?」

人の流れに乗って八百屋に近づくも

「あ、いて、お、………あ」



真横を八百屋が通り過ぎ、



……………………………。



「うわっ」

通りの反対側まで流され押し出され

「·······弾き出された········!」



お使い。

それは主婦や働き手の男たちが1日の飯のために体を張り日々の鍛錬のもと食糧を手に入れるサバイバル買い物バトルである。


「これは····」


##NAME01##の顔が引き締まる


「真面目にやらねーと終わらねーぞ」


押し出され、尻餅をつていた##NAME01##は背筋に冷たい汗を感じながら立ち上がった
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