黒兎
□目覚め
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ある晴れた日の夕暮れ。
夕陽が山に沈もうと、空を朱く染める。
その反対の方角の空には闇が刻一刻と近いていた。
町は自然に恵まれ、風は頬を撫で、川は緩やかに流れる。
そこに、一人の少年がいた。
袴を身に纏い、手荷物竹刀の先には荷物をぶら下げている。
栗色の髪の毛は夕陽で朱く照らされ、淡々と帰路についていた。
しかしその様子は何処か不機嫌そうだ。
長屋を抜け、更に奥に向かおうと足を進める。
しかし長屋を抜けてすぐ、ふとある一点に目が留まった。
それを見た少年は目を見開き、すぐにそれへと駆け寄った。
「おい!大丈夫か!?」
そこにはボロボロになった中国の民族衣装を着ている黒い髪の少年がいた。
いや、倒れていた。
胸にはまるで切り裂かれたような跡が残り、片腕は折れている。
彼は俯いたまま、いくら呼び掛けても反応がない。
意識がないようだ。
放っておく訳にもいかず、その少年をじっと見る。
「仕方ねぇ。」
日はもう沈み、空は闇を纏っていた。