黒兎
□裏切り
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春雨本艦に戻り伊坐薙はそのまま提督を訪ねた。
「それで、首謀者は始末出来たのか?」
「…いやぁ。着いたときにはもう逃げられた後で、残党しか残ってなかった。」
着いた早々、仕事の結果を伊坐薙に尋ねる。対して
伊坐薙は切り悪く返した。
その反応に陰津提督はにこやかに微笑んだ。
「…そうか…それは残念だ。わざわざご苦労だったな。」
「じゃ、俺はもう行きますよ。」
いつもの調子でさっさと部屋を出ようとする。と、
「これからどうするのかね?」
不意に声を掛けられ足を止めた。
口元を緩ませ、答える。
「そりゃまあ。
あまり人の事詮索するもんじゃないですよ。」
「わしも嫌われたもんだな。」
「そんなことないですよ。」
「実に残念だ…こんな人材を失うことになろうとは。」
突然扉から多くの兵が駆け込んでくる。
そして伊坐薙を取り囲む様にして刃先を向けた。伊坐薙は気にも止めないように提督のみを見据える。
「先日の仕事。首謀者を逃がしたらしいな。」
「…さすが。提督は全て御見通しか。」
「残念だよ伊坐薙。
わしは御主を気に入っておったのだが。
このままにしておくのも一つの手だが、見過ごせば後に厄介だ。大人しくわしに従ってくれればよかったものを。」
「本当に勘弁してくれよ。考えるだけで吐き気がする。」
「昔から御主は嘘ばかり付きおる。」
「世渡り上手と言ってください。」
「同じ事よ。…殺れ!」
一斉に兵が襲い掛かる。しかしそれを一瞬にして薙払った。
倒された兵は壁へと強く打ち付けられ、再起不能となる。
だがそれでも更に兵は増える一方だ。
「まぁ、今更殺れなんて言わねーよ。今まで散々殺ってきたんだ。後悔もする気はないし、罪を感じる気もない。
殺してほしけりゃ前へ出な。
じゃ、提督。いちいち相手もする気はねーから。俺は俺のやりたいようにさせてもらうとするよ。」
伊坐薙は出口へと向かい走り出す。
邪魔をするものは薙ぎ倒し道を開け、先へ進む。
「伊坐薙…わしから逃げられると思うなよ?」