黒兎

□違和感
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一人、部屋に戻った伊坐薙はベッドの上に仰向けに倒れ込んだ。


目を閉じるとあの目を思い出す。

いくら振り払ってもそれが消えることはない。

何故忘れられないのか、わからない。

今までにこういうことは一度も無かった。


「クソ…。」


不愉快だ。
思い出す度に苛立ちを感じる。

憎悪でも、復讐心でもない。
死を恐れず、しかし諦めもない。

ただ自分の道を信じ、己の大切なものを護る為に刀を握る『侍』。

弱い肉体を持ちながらあれだけの強さをもつ、夜兎とはまた別の強さをもつ修羅。

自分の身が死にさらされているのにも関わらず、人の心配までする変な奴。


俺を哀れだと言った。


辛そうだと言った。


鏡に映る自分を思い出す。

何処か虚しそうなその表情は一体何を感じていたのだろう。


トントン…


扉から音が聞こえる。
伊坐薙は起き上がり扉に目を向ける。
扉がゆっくりと開かれた。入ってきたのは神威だった。


「やあ。」

「なんだ。お前か…。」


気が抜けた伊坐薙は再びベッドに寝転がる。


「やつれてるね。」

「ほっとけ。」


吐き捨てるように返す。


「何かあったの?」

「…。どうして…?」


力無く笑ってみせる。


「伊坐薙がそこまで考え込むの珍しいから。」

「…。」

溜息をつき起き上がった。


「お前、妙な所で感が鋭いよな。」

「妙な所は余計だよ。」

「…別に言うことの程でもねぇよ。」

「そう?」


神威は伊坐薙の目を覗き込む。


「…なんだよ。」

「別に?」


神威は後ろに返り、扉のとってを手に取る。その様子を伊坐薙は不審そうに見る。


「じゃ、俺は戻るよ。」

「何しに来たんだよ、お前。」

「まぁいいじゃない。くれぐれも足元には気をつけなよ?」


そう言い残して神威は部屋を出て行った。


「何なんだ?アイツ…。」




 
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