黒兎

□参戦
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地球侵略部隊第一陣母船に、ある一つの通信が入る。


「なんだと!?
…提督め…必要ないと言って置いたのに…。」


それは春雨本船からの連絡。
第七師団を地球に派遣するというものであった。


「そいつらが来たら私の今までの働きが全て水の泡になってしまうではないか。

おい、第七師団から連絡が有ったら直ぐに知らせろ!

こうなったら早めに手を打ってやる…。」

「あ…あのう…。それが…」

「なんだ?」


連絡班の一人がはっきりとしない口調で司令官に何かを伝えようとする。

ぐずぐずする様子に司令官は苛立ちを積もらせる。


「す…既に第七師団は到着し、入船許可証を持っていたため無条件で入船。
現在着地が確認されました。」

「なに!?」


司令官はそれを聞いて目を丸くする。


それもそのはず。連絡が入ったのはつい先程。
春雨本船からここまで相当な距離がある。すぐに着けるという距離では勿論ない。


これらの事を考えると、第七師団をすんなりと戦場へ送り込むため、提督が第七師団に一枚噛んでいるとしか思えない。

その時、後ろにある扉がシューと音を出しながら開いた。

そこから入ってきたのは第七師団の団長である伊坐薙と阿状兎だった。


「はじめまして。」


先に口を開いたのは伊坐薙だった。

司令官は本来団長が羽織る赤いコートを隣の大男ではなく、まだ若い黒髪の少年が羽織っているのを見て、彼が団長であると確信する。


「こ…これはこれは。
まだ若いのに団長とは恐れ入る。私はこの第一陣母船の司令官、阿呆だ。」

「…やっぱりこれ着てないと団長って分かりづらいよな。
俺は第七師団団長、伊坐薙だ。よろしく。」


よろしくとは言うものの、手を前に出そうともしない。
握手をする気、つまりは協力する気はないようだ。

その様子に阿呆司令官は不機嫌そうな態度をとる。


「わざわざ遠くから来てもらった所悪いが、こちらの戦力は十分に足りている。
加勢をしてもらう必要はない。」

「へぇ〜。その割にはなかなかてこずっているように思えるけど…。」


伊坐薙は阿呆司令官を挑発するように刺激する。


「それは勘違いではないか?
この戦争は後一歩で終結する。」

「後一歩…ねぇ。その一歩に十何年もかけるとは…随分と大きな一歩だな。まぁいいけど。」


阿呆司令官の言葉に呆れた伊坐薙はもう興味が無いように目を逸らす。


「それで、アホな司令…「阿呆司令官。」………。」

伊坐薙が口を滑らせた瞬間、それを隠すように阿状兎が口を挟む。それに伊坐薙は不満そうな顔を見せる。


「それで、現在の戦況はどうなっているんだ?
詳しくお聞かせ願いたい。」

「フン、いいだろう。現在進行中の戦闘はない。
先程終わったばかりだ。

しかし東の方角に怪しい動きが見える。
恐らく次の戦闘はそこで起こるだろうな。」

「敵さんの本拠地は?」

「それが解ればすぐにでもそこを叩くわ。」

「それでよく後一歩なんて言えたなぁ…。」


伊坐薙が最後に余計な口を挟む。その台詞に阿呆司令官のこめかみに血管がうっすらと浮かび上がる。


「で?こっちの被害はどうなの?」

「…。」

「ねぇ。」

「…。」

「オーイ。」

「…。」

「…。なるほどねぇ。」


何も答えない阿呆司令官に、伊坐薙は被害の規模を察したのか追求を止める。

そして近くにある地図と戦力の駒に目を向け、即座に状況を把握する。


「阿状兎。こっちの戦力を三つに分担して、内一つに十人…そこはこの陣と合流し加勢。
リーダーは阿状兎が決めといてくれ。
そしてお前は七人を率いて西へ。
俺は適当に三人ぐらい連れていく。」

「ちょいと団長?
確かに俺達は少数でしか来てないから数が少なくなるのはわかるが、三人はちょいと少な過ぎやしないか?」

「神威よりましだろ。」

「アイツはまた別だ。強い奴が居たらすぐさしで勝負したがる。」

「ほんと。困った奴だよな。」

「全くだ…じゃなくて、
話しをすぐ逸らそうとしない。

そもそも疑問に思ってたがどうしてこんな少数を選んだんだ?
そしてなぜ西にいく?
団長は三人しか連れないで何処へ行くんだ?
何か策でもあるのか?」


「あー、もう。質問が多い。」

「始めから順に教えてくれ。」


質問の多さにうんざりしながらも初めから説明する。


「少数なのは、戦力はそんなに必要ないと思ったからだ。こんな大掛かりの戦争、戦力は多少補うだけで十分だろ。

後はここ。」


そういって頭を突く。


「西へは、敵の本拠地は大体この辺りだと考えられるからな。

…試しにここを叩いてくれ。
念のため三百から五百の戦力を此処から借りる。」

「で、団長は何処へ行くつもりだ?」

「それは教えない。」


伊坐薙は阿状兎に笑顔で答える。
阿状兎は鳩が豆鉄砲をくらったかのようにキョトンとした後、深く溜息をついた。


「アイツが強い奴に目が無いのは悪い癖だが、アンタもアンタでそこが悪い癖だ。
肝心なことは何も話そうとしない。聞き出そうとすれば嘘ついてまで隠そうとするし。

こっちの身にもなれよすっとこどっこい。」


伊坐薙が阿状兎に淡々と命令を出し、それをぼんやり聞いていた阿呆司令官はハッと我に返る。


「おい!
何故貴様が命令を出している!?司令官は私だぞ!」


凄い剣幕で迫る阿呆司令官を見て、伊坐薙は溜息をつく。


「何か文句でも?」
「おおありだ!とにかくお前達の協力はいらん!!」


「ふーん…。折角敵の本拠地の場所暴くのに、俺が一役やろうかと思ったのに。」

「貴様に何が出来る。これまで何年も誰にも出来なかったことを。」

「出来ると言ったら?」


伊坐薙の自信のある言い方に阿呆司令官は言葉に詰まる。


「……出来るのか?」

「えぇまぁ。これまでの戦闘データと戦力さえ有れば。」

「…。」


しばらくの沈黙が流れる。
その沈黙を打ち破ったのは耳に響くサイレンだった。


「な…何だ!?」


阿呆司令官が慌てる中、伊坐薙と阿状兎は落ち着いて状況把握を図る。

「阿状兎。お前は先に皆の所に戻って一応戦闘準備して待機しとけ。
さっきの命令は延期…若しくは取消だ。状況次第でまた伝える。」

「はいよ。」

阿状兎は駆け足で部屋をでて他の人が待機しているところへ向かう。
これと同時に現状を掴んだ阿呆司令官の部下が叫んだ。


「敵襲!第五艦、第三艦撃破!敵は約三百!」

「何だと!?東の荒野ではないのか!?」

「本船に向かって現在進行して来てます!」


それを聞いた阿呆司令官はすぐ様冷静に戻り、策を練る。その間伊坐薙は
「早く指示を出してやりなよ」
と、本人に聞かれないよう小声で呆れていた。

そしてその司令官は一瞬の間を置いた後、何かひらめいたのか伊坐薙に向き直る。


「…そうだ。この状況、伊坐薙団長。お前ならどう乗り切る?
手勢はニ百人貸してやろう。その働き次第でお前の案に乗ってやらんでも無い。」

「…。」


伊坐薙は少し考えてすぐに結論を出した。


「そうですね…。
ただ…百人で十分だ。」



 
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