黒兎
□依頼
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春雨 本船 ―――――――
あの血生臭い戦場から帰った伊坐薙は春雨全師団を率いる提督の元を訪れていた。
「今回の仕事ご苦労であったな。」
「どうも。」
提督の言葉に素っ気なく返す。
目を合わせようともしない。
仕事の後にも関わらずその疲れを感じさせない所か、当たり前の日常を日常的にこなしただけのように無感動に対面する。
「にしても、御主の仕事は実に美しい。漆黒に身を包み、戦場で敵を狩る姿はまるで死神。夜王の後任に相応しいな。
しかし…わしの側に置いて置けないのは惜しい。どうだ?第七師団は他に任せて、わしの直属の部下にはならんのか?」
「気持ちの悪い連想は止めてはくれませんかね。」
「そう言わずとも。今からでも遅くは無いぞ?」
そう言い、提督は笑う。
それをあしらうように伊坐薙も笑った。
「冗談。俺は今で十分ですよ。これ以上仕事は増やしたくない。面倒くさいじゃないですか。
それに、今のままの方がいろんな奴と殺り合えそうですし。」
「フン。御主は相変わらずのようだな。」
伊坐薙は探りを入れるように提督に目線を向けた。
「で…。わざわざ俺を呼び出すだなんて。アンタ、今度は何考えてんです?」
伊坐薙はうっすらと笑って見せる。
問い掛けに対し、提督も怪しく笑う。
「御主、地球という星は知っておるか?」
「地球…?…あぁ。何年もずっと戦況が続いているあの星か…。」
思い出すように頭を捻る。
確か天人があの星を開かせようとして、向こうは必死に抵抗してると聞いたことがある。
あの星の生物…人間は大して力も無いらしいが、刀一本で頑張っているとか何とか
「まだドンパチやってたんですね」
「相手がよく粘るようでな。江戸の頭はとっくにこちら側についているというのに…まったく手こずらせてくれる。
あの星は美しく資源も豊富にある。そんな星を猿共にくれてやるのは何とも惜しいとも思わんか?伊坐薙。」
「別に。資源とかそういうのには興味無いですよ。ただ戦場さえあればそれでいい。」
「フフフ…。全く…夜兎という種族は野蛮や奴よ。」
「そりゃ御褒めに与り光栄です。それで、その地球がどうかしたんですか?」
「その地球での戦、侍と呼ばれる種族になかなかの苦戦を強いられているようでな。あと一歩だと報告はくるが、今だ戦況は変わらん。
だが…。」
「…。」
「そろそろその戦況も長引き過ぎだ。上の奴等も我慢の限界だろう。」
「それで、どうしろと?」
「戦を終わらせろ。」
その言葉に伊坐薙は笑みを零した。