無題
□生徒会
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梅雨も完全に明け、日差しがジリジリと照りつける。
しかし現時刻は午後8時。既に日は暮れ、肌を焼く日差しは無い。高く結んだツインテールを揺らしながら、秋丘 湖音は梅雨の湿気の残る蒸し暑い夜道を一人帰路に着いていた。
「8時か…。思ったより長引いちゃったな」
テストも無事に終了。一学期最大のテストである期末テストまでの一時の休息。だからこそこの何もない期間は忙しい。
「球技大会の準備もいいけど、テスト終わって気が緩んだのかなんなのか生徒もなんだか浮かれてるし。」
期末のテスト明けには球技大会があるのだ。球技大会の準備も生徒会の重要な仕事の一つである。しかし生徒間の小さないざこざから何かと報告件数も多く、思うように作業が進行せず、一人ふて腐れていた。
「うーん…でもまあ、ぐちぐち考えても仕方ないか。よし!今出来ることをやろう!……ん?」
後ろから不意に腕を掴まれる。
「ちょっと。何か用?」
生徒会が終わり、ようやく解放されると思った矢先にこれだ。不機嫌に腕を払い振り返った。
しかし、視線の先には誰も居ない。
「え…うそ…。きゃ……!ちょっと!」
しかし腕には確かな感触がある。
目に見えない何かがそこには居た。
「放しなさいって!」
思いの外相手の力が強く、振り払えない。もう駄目だ。そう思った時だった。
ドゴォン
「きゃあ!」
真横といく至近距離で、何かが爆発する。風圧に耐えきれず、バランスを崩し尻餅をつく。
「な…何?何なの?きゃっ」
あまりにも非現実的な展開に脳内処理が追い付かない。ふと人の気配を感じ、隣へと目を移した。あの爆発を直で受けてしまったのだろう。見たことの無いお兄さんが白目を向いて気絶しているではないか。さっき腕を掴んでいたのは恐らくこの人だろう。いや。絶対。
では、爆破の犯人は?助けるにしろ何にしろ、爆破は無いだろう。助けるの域を越えている。私まで怪我したらどうするんだ。顔を上げ、弾が飛んで来たであろう方向を睨む。一言文句を言ってやらねば。
「ちょっと!危ないじゃな「すみません!大丈夫でしたか!?」………。」
文句を言う前に遮られてしまった。彼は手に持つバズーカを捨て去り、慌てて駆け寄る。
「怪我は?何かされましたか?」
「え…あ。いや。腕を掴まれただけだったから…。」
「本当に?」
自分の事のように心配する彼を怒鳴る機を失い、ただコクンと頷く。
「よかった。夜道に女性が一人で歩くなんて危険ですから、気をつけてくださいよ?」
「あ、はい。ごめんなさい。」
なぜ私は謝ったのだろうか。そんなことより、眉が隠れる程度の長い前髪。ほっそりと、でもしっかりした体格。暗くて顔はよく見えないが、制服を着てるし学生だろうか。この制服は同じ学校……?あれ!私何考えてんの!?
急に恥ずかしくなって顔を伏せた。
「えっと、あの。貴方は…「ユーウ!見つかったかー!?」
勇気を出して聞いてみるも、遠くからの声に打ち消されてしまった。彼は私と同じ目線から立ち上がり、後ろを振り向く。
「終わったよー!今行く!
じゃ、帰り道気を付けなよ?」
それだけ言い残して、気絶したお兄さんを手際よく“腕”にしまい込んだ後、秋丘湖音を一人置いて行ってしまった。
「…。」
一人ぽつんと道にへばりつく。
「ユウ…?」
誰かが呼んだ彼の名前を口に出す。頬は少し熱を帯びて、もう見えない彼の背中をしばらく眺めていた。
「ど………どうしよう………」
どうやら私は恋をしてしまったようです。