黒兎

□奇襲
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「団長、そういや前言ったことはいいのか?」

「はぁ?何の事だ?」


阿状兎と合流した伊坐薙は、資料庫から持ち帰った地図を広げ、一人考え込んでいた。

地図の上には赤いペンでいくつも×印が印されている。


「さっき敵が攻めてくる前に指示出してたろ?」

「あれなら取り消すって言ったろ。」

「確かにそう言ったが、本当にいいのか?」

「状況が変わったんだよ。」


阿状兎の質問に素っ気なく短い言葉で返す。
その様子は何処か不機嫌そうだ。

察した阿状兎は余計眉をひそめる。その間に伊坐薙は次に小さな○印を地図に次々と書き足していく。


「何かあったのか?珍しく不機嫌だな。」

「…。何で。」

「何でも何も、ずっと不機嫌じゃねぇか。この船に戻った時から。」

「んなことねぇよ。上機嫌だよ?ずっと。
楽しくてしょうがないね。」

「嘘つけ。眉間にシワよせて棒読みでその台詞吐く奴が上機嫌な訳あるか。」


いつにもなく追及してくる阿伏兎に伊坐薙の集中力が切れる。


「あーもう、うるせぇ!そうですよ、俺は今不機嫌です!
これでいいか?」


投げやりな態度に阿状兎は溜息を付く。


「で?誰か気に食わない事でもあったのか?」

「聞いてんのは人か?事か?
ちゃんと日本語喋ってくれ」


「どっちもだよ!」


休むことなく地図に書き込んでいた手が止まる。


「別に何も?」

「さっきの奴、殺し損ねてたろ。」

「…心配すんな。どっかのアホじゃないんだ。仕事に私情は挟まないよ。」

「殺してない時点で挟んでるだろ。」


今度は伊坐薙が溜息を吐き、再びペンを走らせる。


「お前もしつこいな…。ネチネチネチネチ…女か。」

「ガキが何抜かしてやがる。」


「…うっし。出来た。」


伊坐薙はペンに蓋をし、背筋を伸ばす。
赤で書き込まれた地図を覗き、阿伏兎は眉をひそめる。


「…やけに今回は真っ赤だな。」

「仕方ないだろ。ゲリラ戦なんだから。」

「ゲリラ戦?…なるほどねぇ。あの司令官もてこずるはずだ。」

「まぁゲリラ戦に策も何もないんだが…いくつか拠点を見出だすだけでもマシだろ。」

「幕府はもうこちら側についてんのか?」

「とっくの昔にな。侍がその決定を受け入れられず置いてけぼりって訳だ。
…たく…あの提督ももう少し情報くれてもいいじゃねぇか。手間が掛かる。」


「だから本拠地もないのか。」

「ゲリラ戦だからじゃねぇよ?元から作ってないんだ。
だからどの拠点も本拠地の代用になる。

今はそこが何処だかはわからんが…わかった所で同じだ。
自由に移動させることが出来んだから。

本拠地がどうのこうの言ってる内はこの戦争は終わんないよ。」


「だから前の命令も取り消すって訳か。」

「そういうこと。この戦争を終わらせるには力押しが一番効果的だ。だからあの司令官も力押しばかり言ってんだよ。

あながち油断なんねぇな…あの司令官も。だがまだまだだ。型にはまりすぎて頭が固い。」


「じゃあどうするんだ?力押しだけじゃ足りないんだろ?」

「だからこうして拠点探ってんだろ。
…さてと。」


伊坐薙は立ち上がる。


「後は敵の主戦力が何処にあるか探るだけだ。」

「んなことしなくても、さっさと攻めればいいじゃねぇか。」

「ばーか。それで帰れるか。
強い奴がいる所に俺が行くんだよ。じゃねぇとつまらねぇ。」

「それも夜兎であるが故…か…。」

「さぁな。」


伊坐薙は楽しそうに笑みを浮かべた。


その直後、事態は急変した。

 

 
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