黒星の小説とか。

□Please love me! ――ただし妹のみ――
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妹がいない大学はあまり好きではない。
友人というカテゴリの中にある人間と愛想笑いや談笑をするのにも飽きた。
しかし、辞めることはできない。妹が心配するからだ。
心配されるのは嬉しいことだ。しかし、妹に心配をさせて負担をかけさせたくない。

「――ですので、ここの証明は……」
「さすがですね、完璧です。では、この続きを山崎君、お願いしますね」

今日もまた、面白みのかけらもない授業を受け、僕が生きていく人生の中では不要となるほどの学を身につけていく。
しかしながら、この豊富な学もまた、役に立つときがある。
妹に勉強を教えるときに、それはもう便利な事この上ない。というか、僕は妹に勉強を教えるために大学に行き、豊富な知識をさらに増やしていくのだ。
そう考えると、この気に入らない時間でさえも、とても有意義なものへと思えてくるものだ。

「はい、では復習を必ず行っておいてくださいね。今日習ったところはとても大事なところですからね?」

この先生は毎回のようにこの台詞を吐く。確かに習うところに無駄なものはないのだろうが、全てが全てとても大事な訳ではないだろうに。

「す、すいません……」

呆れつつも大学ノートを片付ける僕に、一人の女性が話し掛けてきた。
はて、見たとおりならばこの女性は僕より若いように見えるが、このような女性と知り合った覚えはない。

「なんだい? 何か僕に用でもあるのかい?」
「い、いえ、先輩の噂を聞いてこの大学に入ったのですけど、先輩に挨拶してなかったので、挨拶しようかなと……」

内心、またか、と呟く。
何故だかは知らないが、この大学に入る四分の三程度の女生徒は、僕を目当てとして入ってくる。正直面倒だ。
僕の中ではこの世界に存在する人間の中で恋愛対象として見ることができるのは、最愛の妹だけなのだ。その他の人間など、端から対象外である。
しかし邪険に扱うことはしない。これは紳士として当然の行為だからだ。

「そうか、よろしく頼むよ。君、名前は何て言うんだい?」
「私の名前ですか!? 私、上杉×××って言います! よ、よろしくお願いいたしました!」

緊張しているのだろう、言葉遣いが少々変だが、そんなことはどうでもいい。

「そうか……君の名前はそういうのか、いい名前だね」

……ふふふ……×××というのか……ふ、ふふふ、あははははははは! ……いい名前だ! 実にいい名前じゃないか! 本当にいい名前だよ! この世の中でここまでいい名前はそうそう存在しない! そう、《妹と同じ名前》なんて実にいい!

「うちのお母さんがお伽話が大好きで、そのお話に出てくる一番好きなキャラクターの名前を付けてくれたんです。私もこの名前が大好きなんですよ」
「あぁ、君も君のお母さんも実にセンスがいいよ。
 その名前に生まれてきた事を誇りにもって、その名前に恥じることのないように頑張れ」
「は、はい! が、頑張りますっ!」

妹と同じ名前の子は元気よく返事すると、満足そうな笑顔で去っていった。
ふむ、我が妹の名前を持つものに悪いものはいないな。当然だが。

「……む?」

ノートも片付け終えて、場所でも移ろうかと思ったとき、ポケットの中に入れておいた携帯のバイブレーションがメールの受信を知らせる。

「む……! 妹からのこの時間帯のメール……!? 何かあったのか!?」

ポケットから取り出した携帯には妹からしか着信がこないようになっている。何故なら、他の友人から着信がくる方は別に買っているからである。

「なになに……帰りにお菓子とか買ってきてくれると嬉しいな……?
 ……ふ、心配して損などはしていないが、お茶目な我が妹だ」

これだから我が妹は堪らなく愛おしいのだ。
……さて、妹のためだ。種類も豊富に買ってきてやらねば。
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