我、妖怪に御座候
□午前二時_東京上空にて
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「見えないモノは信じないぃっ。」
そう断言する君が愛おしい。
いつからか、漂うように意識が生まれ、いつからか、いくつもの名を持ち、いつからか、この地に縛られている。
僕は、初めは翼なんてなかったはずだし、もっと男らしいカタチだったはず。
神は神でも悪神とされていたと思う。
…それに、もっと神々しいカタチだったはず。
いつの間にか生えてしまった羽根とおなじで、神というよりヒトに近づき、愛なんて感情までできてしまった。
今の僕は、神でもヒトでもない。
「ねぇ、だからさ。あんたがヒトじゃないって言うならね、証明しなさいよぉ〜っ」
酔っ払う愛おしい君は、自分が今どこにいるのかも気づかずにくだを巻く。
眼下に広がる煌びやかな夜景。
君に見せてやりたいけど、見えてしまえば、君は知ってしまうから。
「あんた、なんで笑ってんのよっ! お姫様抱っこなんてしたって、全然何とも思わないんだからねっ」
言いながら、頬を摺り寄せてくる天邪鬼な君をゆっくりと運んでいく。
「あんた、一体何者よ、言ってみなさいよぉ〜、ばかぁ」
襟を掴んで寝ボケ始めた君に、小さく小さく囁いた。
「我、妖怪に御座候。」
時代がかった言い回しでカッコつけてみたのに、やっぱり君には通用しない。
「んっ、なんか言った? 聞こえないっつのっ」
眠いのか、目は閉じたまま、似合わない荒いもの言いで暴れる君に今度こそ聞こえるように囁いた。
「愛してるって言ったんだよ。」
「………ばか…」
赤くなって寝たふりをする君にはやっぱり本当のことは言えそうにない。
でも…『見えないモノは信じない。』君の口癖が、僕の迷いを許してくれるから。
もう少し、このままでいようと思うんだ。