子猫シリーズ
□鮫と子猫
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『日本(そっち)はどうだい?』
特殊な回線でつながった電話の向こうは遠い母国に居る守銭主義の同僚からだった。定時報告ついでに任務の状況を伝え終えた後、唐突にそう尋ねられてスクアーロは目の前で小さく寝息を立てている飼い猫に視線を落とした。
「じめじめして鬱陶しい国だぁ」
『ジャッポーネは今の時期梅雨だからね』
こうして世間話みたいなことをするのは珍しい。だがどうせ気まぐれなのだろう。
右に傾けていた受話器を左に持ち変えた。
『まぁ頑張りなよ、もうすぐ戻れるんだからね。そうしたらそんな国ともおさらばさ』
それはあらかじめ決められていたこと。
ミケ、という名で呼ぶ由来になった琥珀色の髪を無骨な手が撫でる。少女が起きる様子はない。 自分のものとは違いふわふわとわたあめのような髪の毛が心地よくて癖になりそうだ。
手放したくない、と思うのもきっとこの毛並みが癖になってしまっただけだ ―――――
∬ どしゃ降り恋愛W
「綺麗よね」
唐突なその言葉に疑問を口にするよりも早く、長い銀髪が優しく、だが遠慮がちに触られた。
ソファーに座るスクアーロの後ろから小さな手が飼い主の髪を珍しそうに見ていた。
外は相変わらずのどしゃ降り。桜の木はそろそろピンク色の花弁を失おうとしていた。
「んだぁ?」
「言われないの?綺麗だって。 あたし初めて見たわよ、銀髪なんて」
「白髪だとかうざってぇなんて言われたことはあっても んなこと言われたことはねぇなぁ」
引っ張りまわされたり掴まれたりウイスキー分投げられたりしたことはあってもこうして撫でられるようなことはなかったような気がする。それが少しくすぐったい。
だが逆にあの連中が撫でたり綺麗だとかいってきたらそれはそれでホラーだ。