アヤカシ

□構って欲しい
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必死になって、追ってくるなにかから逃げる、薬売りの腕を太い腕がそれを捕まえる。
『…逃げられるとでも、思ったか?』

「さぁ、どうでしょう………ただ、試してみようと、思ったのではないでしょうか」

息を切らしてても薄い笑みを浮かべるのを忘れない薬売り。

『軽率な考えだな』

「えぇ、まったく、ですね」

『とは言っても、逃がしはしないがな』

掴む腕に力がこもる。
それを見つめ、苦しげに顔を歪ます薬売り。

「わかっています…最初から、あなたに適うわけないことを知っていますので」

薬売りの降参に男は満足そうに笑みを浮かべ、掴んでいた腕を引き、抱き留める。

『捕まえた』

尖った耳に口を寄せ、小さく囁く。
薬売りは「はい、はい」と溜め息混じりに軽く流し、男から逃れようと肩を押す。

「わかっていると思いますが、あなたとの鬼ごっこはもう終わりです、よ」

『…もう少し、構え』

必死になって我を押すその腕をいとも簡単に掴み、再び抱き寄せる。

「……仕事があるのですが、」

『そんなのは知らん』

「……」


ほんの少し考えこんでみたものの、めんどくさくなって、言葉のかわりにため息が零される。



「…じゃあ次は、ワタシが鬼、ということで…?」

なんだか楽しそうな笑みを浮かべ、袖を腕まくりする。

『負ける気がしないな』

男は薬売りから少しずつ後ずさりしていく。

「今回ばかりは、本気で行きます、よ。今までの分まで、たっぷりとワタシの鬱憤をはらせていただきます」

『かかってくるがいい』

薬売りを挑発するその男。
薬売りはありとあらゆる薬を握りしめ、男に向かえ討つ。
男はそれを避ける。


結果は見えている。だけどそれを変えるのも、また、遊び。

たまには大人らしからぬことをしてみるのもいいかもしれない。

ほんの少し思った。



end
 

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