乱闘

□君の上の名前
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「ねぇ、気になったことが一つあるんだけど」
さっきまでソファーの横で黙々と本に注がれていた瞳がこちらに揺れた。

「どうして、僕らには上の名前がないのだろう。」
唐突な質問。
…上の、名前。
つまり、苗字のことだ。
「…そうゆう設定だからじゃないのか?」
今さらのことながら、気怠そうにマルスの質問に答える。
…多分、これが最良の答えだ。だが、マルスはこの答えに腑に落ちない様子で首をわずかに傾げる。
「……確かにそうなんだけどさ、もっと違う意味がある気がするんだよね。たとえば……
もともとあった一部の苗字が変で消したいぐらいイヤだから、いっそのことみんなのも消そう…とかさ」
開かれている本をバタンッと閉じ、ソファーの端に投げ出す。
「それはないな」
「…やっぱり?」
苦笑するマルス。
「でも、マルスの考えも一理ある気がする。」
「えっ…?」
ここに入る際、実は苗字がもともとなかったのかもしれないし、あるいはマスターの単なる気まぐれで消したのかもしれない。
…そんなことが実際にあったとしたら…。あったとしたら…?
俺たちの上の名前は何なのだろうか。

「………。」

気になる。
そんなことを思い始めたら、本当に気になり始めた。


俺たちの苗字。
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