その他

□王子様とDanceレッスン リチャアス
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くるくるくる。
ワン、トゥ、スリーを口ずさんで、ステップを踏む。
普段は流れない華やかな音楽に合わせて。

「もっと肩の力を抜いて」


華のある美声が言葉を奏でる。
すぐそこにある美声に返事をして肩を落として再びくるくる。

肩の力抜きすぎ。
一振り、頭にチョップが入る。

この領地一帯をまとめる領主とはいえ、一国の王子様には到底叶わないことがたくさんある。
華やかさ、美しさ、神々しさ…は別に領主にはなくてもいいかもしれないがリチャードを見ていると、なんだか……悔しいというか、ずるい。

俺と一つしか変わらないのに、この差はなんだろう。


「アスベル。僕の顔に、なにか付いてでもいるのかい?」

「い、いや。何も」

そう?と首を傾げるだけで、王子様はそれ以上は聞いてこない。
やっぱり王子様はすごい。とまた見つめてしまう。
優しげな人相に整った顔立ち、そして…なんて勇ましい。


…ダンスに集中できない。


ワン、トゥ、スリー。
リチャードが口ずさんで、くるりと回る。体を密着させて、足を次のステップのところに運んで、握っている手を上に向ける。
一瞬体を離して遠いところで一回りしては腰に手をいれて再び体を密着。

この繰り返し。


それを繰り返した6回目、足が上がらなくなってリチャードの足を踏んでしまった。
「あ、ごめん」

「いや、大丈夫だよ。続けて」


ワン、トゥ、スリー。
リチャードの足元を先導していって、空想にいる女性と心をひとつにする。

金髪美女の腰を引き寄せて、高々と上げた手の方へと目線を向ける。

仕事部屋を最大限に活用して、踊る。
部屋から零れる音楽に、お茶の準備をしていたフレデリックは微笑ましく笑顔を浮かべていた。


「……っ」

疲れと足の痛みに襲われて、10回目を迎えようとしたそのとき、とうとう足がもつれて、倒れるようにその場に座り込んでしまった。

「大丈夫かい?」

息を切らして座り込んでしまった友を見て、中断をよぎなくされた。

「…疲れた」

肩を上下させて天井を仰ぐ。
額にうっすら汗が滲み出ていた。

「いいかい、アスベル。バロニア国王に仕える騎士という、一国を背負う名を手に入れ、そのうえ領主だということを広く知れ渡るようになったら、多くの女性がその肩書きと名声に注目して君のところに言い寄ってくるだろう。晩餐会には呼ばれるようになり、お茶の約束を交わしたり、ダンスの相手を頼まれたりする時がくる。だからと言って疲れたからって全部投げ出すことはいくら友達でも許さないからね。僕も国を背負っている立場だからね。


ダンスを踊れないのは宝の持ち腐れっていうやつだよ」


何やらベラベラ話してる友の話を左から右へと流す。



屋敷内に聞こえる音楽と愛おしい息子の少し歪な足音に微笑ましく思い、あらあらまぁまぁとフレデリックとひそかに笑い合った
 

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