その他

□だって思春期だもの。シオネズ
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紫苑は古めかしい物語の、縦に綴られている文字を追っていく。
時折、難しい顔をしては 笑顔を見せたりもする。
書庫の本たちは奥深い物語ばかりなのだ。

「なぁ、紫苑」


ソファーでその様を見物していた、気怠げな声。


「……なに?」


彼の目は物語でいっぱい。
声だけ こちらを振り向く。
完全に本の虫だ。

きっと何を言っても視線は寄越さないだろう。

だって彼はエリート。

NO.6にいた頃は、幼いときから麻酔という名の液体の入った注射器を俺に打って、その後のやる工程も知っていた。
俺の傷口を直してくれた。
あろうことかパンの焼き方、コーヒーの入れ方まで教え込まれたとか。

だからこそからかいがある
知識が詰まったその頭、ほかにはどんなことが詰まっているのか。

考えるだけでにやける。


「エロ本って読んだこと、あるか?」


ニヤニヤしながら紫苑を見る。
呆けた、かなり笑える顔をしていた。

「…よ、んだことない」


「あるんだな?んん?言ってみろよ」

顔がみるみるうちに赤くなっていく。
なんだか可笑しくなって、吹き出しそうになる笑いをこらえる。


「な、ないって!」

再び視線を本におとす。

顔は真っ赤。頭の中は わちゃわちゃ。
どこまで読んだのか分からなくて、ページをペラペラめくる。
動揺が隠しきれない。

「嘘つくなよ」

「ついてないっ」

「NO.6にもエロ本の一つや二つ、あっただろう?」

NO.6。たしかに超エリートを生み出す都市。けれど、そんな都市でもエロ本の一つぐらいはあっていいのではなかろうか。
エリートゆえ、ストレスは きっとハンパないはずだ。
こんなのなかったら、みんな可笑しくなると思う。

いくら紫苑でも、一度くらい読んだことがあるはず。


「…ない」


「しつこいな、あんた。そこまで動揺して、見てないって言うのか?」

「………」

「…仕方ない、俺が持ってきてやるよ」


「えっ」

「おっさんから貰ってきた雑誌があるんだ。これ見たら、女に関心が向くかもな」

髪を結い、立ち上がる。
ソファーで眠っていた仔ネズミ達がチッと一声。

ほぼ空になった本棚をあさる。
普段、手前には置かないエロ本。
隠すように置いた、そこに手を伸ばす。


「ほれっ」

紫苑の前に薄いピンクの本を差し出す。
表紙を見て、心臓が脈打った。

ふくよかな胸がこれでもかとばかりに主張し、足を組む姿がセクシーな、布の細さギリギリの水着姿の女。
太ももは、触ったら弾力がありそうな肌の白さ。

そして、

………見えそう。



ごくっと生唾を飲み込む。


「お、脈ありか?」


ペラペラエロ本を煽る。
陽気な声に、紫苑は俯く。


「これ、やるよ。これで俺のこと、諦めてくれ」


紫苑の膝に置く。

「…」

だんまりを繰りだす紫苑。
試しに、紫苑に見せつけるようにぺらっと開くと水玉模様の水着を着けた、ムチムチな女が尻を突き出している写真。

それを見て、絶句。
顔を赤らめる。








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