いろいろ
□届かない傍観者マイセン+アイリーン
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今日も客室へ向かう
小鳥のさえずりを聞きながら私は思うのだ。好きな人と一緒に歩けられたらな、と。
『届かない傍観者』
「また来たわよ。マイセン」
ゼェハァする呼吸を抑えてマイセンに手を突き出す
お金を頂戴とも言わず、ただその手にお金を置かれるのを待つ
「プリンセスも暇だねぇ。毎日ここに通って大丈夫なのか?」
結婚候補者みんないっちまうぞ
などと心配しながら突き出された手に1000Gを渡す
挨拶代わりの金くれアピールなど、一国のプリンセスがしていいことなのだろうか。
マイセンは最初こそあまりの大胆さに躊躇ったが慣れというのは恐ろしくて最近は当然のように手渡す
「別にいいのよ。好きで来てるもの。大体、こんなことで私に愛想尽かすくらいなら最初から付きあわないわ」
いや、そういうことじゃないんですけどね。小さく呟かれた言葉に気にもせず、渡されたお金を財布にしまって確かに受け取ったわとマイセンにお礼をする
「でもさ、そんなに貯まらないものか?ここずっと8日間ぐらい来てるぜ?」
利子一割とはいえ、毎日プリンセスのお金が減ってってる気がするし。
ぎくりとして目が泳ぎそうになるのをマイセンがはい言って
くださいとの言葉に観念してそうね…と重い口を開いた
「…ほら、私1人でモンスター倒しに洞窟潜っているでしょ?…だから回復アイテムとかがたくさん必要になるのよ。そしたらあんな様に…」
重い話に頭を抱えて盛大にため息をつく
「ふーん…じゃあ、ロベルトに頼んでカジノ回してもらえば?」
「わざわざお金のために?いやよ、ロベルトはいい人なんだからそんなずるいこと、できない」
ロベルトを思い浮かべる
ロベルトはいい人だ。
他の人とは違う優しさをあわせ持っている。プリンセスというものに配慮してくれてるのかもしれないが、だからといってその優しさにつけ込むのは、なんだか…罪悪感が邪魔をする
「前は普通になるためになんでも利用してやるって意気込んでたのに?」
淡々と話しながらご自慢の前髪を弄ぶ
「もちろん矛盾してるのはわかってる…でもいざその人の中身を覗いてしまうと、とても利用してやるなんてできない」
キュッと握り込んだ指先を思い詰めたように見つめた。
プリンセスは優しいんだな、とマイセンは思った。
「…ロベルトのこと好きなんだな」
「…違うわ…。ただ、やっぱり人としてそんなずるいことはしたくないだけ…」
そっか。とマイセンはアイリーンの頭を撫でた。
心地よさに顔が赤くなる。
子供扱いしないでとその手を払いのけることができれば良かったのに
撫でられるその手に温もりを感じてしまったら…
きっとマイセンは私を妹かなんかに見て接しているんだろう。
私にとってこの手がどんなに苦しいか…この男にはわからないでしょうね
「私、帰る」
ガタンと立ち、さっさと出口に向かう
「え、もう行っちまうのか」
「えぇ、また来る…かもしれないわね」
さよなら、と手を降って外に出てってしまった
嵐が去った後の静けさにあっけらかんとしたマイセンは一人、笑みが零れそうになって、プリンセスは面白いなと天井を見上げた。
「俺もすきだよ、プリンセス」
ぽつりと呟いた言葉は誰も返してくれないけど、それでいいんだ
好きになっちゃダメなんだ。
誰かを好きになってしまったら動けなくなってしまう。拠り所を作ってしまったら離れられなくなってしまう。
アリシアのために………
『好きって言えばいいのに。そうすればあいつは喜ぶんじゃない?』
悪魔の一言が胸を突き刺さる
悪魔に耳を傾けたのが間違いだった
ああ、そうだな。好きって言えたらと
っくにそうしてるよ
ロベルト
あいつならプリンセスと釣り合うだろ
きっと幸せになれる
でもあいつとプリンセスが一緒にいるところを見るのは……
「いやだなぁ…」
両目を腕で覆い、ただひたすら悪魔の帰りを待った。
おわり
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