いろいろ

□万華鏡のように飽きない君の表情
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___万華鏡のように飽きない君の表情


剣がふたつ、舞い上がって地に刺さる
青い色が目立つ、色白の青年が血濡れた顎をその自分の服につけた
切れたわけじゃない、相手の血を浴びただけ。
拭ってつけた肩の布を見下ろしてため息をつく
また洗わなくちゃいけない。
ルドガーがそう呟いたのを隣で聞いた。

「大丈夫?」

隣にいたジュードの声にルドガーはうすく笑って返す
心配させないようにってことがバレバレだ。
ルドガーはいつだって嫌なことがあってもああやって笑う


僕は彼が笑うのが好きだ
でも嘘笑いはあまり好きじゃない
以前レイアが僕の為に必死に本当の気持ちを隠して元気そうに笑っていた
僕は気づかなかったそのことに自分が情けないと同時にトラウマになった

嘘笑いはいつだっていいことなんてない
アルヴィンもミラも大事なことは言わない。
笑ってごまかす
そして終わってしまうギリギリに気づかされるのだ

アルヴィンの本当の気持ちも知らず、それが引き金になってジルニトラでミラは死んだ
マクスウェルに詰め寄ってミラが帰ってきたときもそう、そのあとミラはもう人間じゃないことがわかった
だけど支えていこうと思った
その決意を胸にガイアス達に挑んでマクスウェルが解放された時、大精霊の神意に耳を疑った
ミラはその意思を継いでマクスウェルになる
ずっとうすく笑って微笑んでたのはこのことだったのかと、すぐに理解した

いつもと違う雰囲気に僕は騙されていたんだ
何も相談もしないで、急にいなくなるなんて酷すぎるよ!
叫びそうになる口を両手で抑えた

涙はぽろぽろ溢れてくるのに、そう言ってやることができない。
本当の気持ちを明かせない
あの時のアルヴィンとミラの気持ちがわかってしまった

嘘笑いするって大変なんだ。
行かないでほしい、なのに言えない
ミラの気持ちを踏みにじることなんてできない
ずっと隣にいた僕にとっては辛い
ずっと見てきたからこそ、切り出せなかった

なにも言えないまま、ミラの手を握る
ミラも泣いていた
静かにきこえないように
僕はそれから何もミラに言えなくなった


「ごめんジュード、その剣とってもらってもいい?」

突き刺さった片方の剣を指差す
ルドガーは少し離れたとこでもう一方の剣を拾っていた

「あ、うん……」

突き刺さった剣は易々と外れる
場所を離れて宿へと足を向けて。

ルドガーに渡すときに腕から赤い筋が滲んでるのが見えた
離れていく腕を追って手を伸ばす

「あ……」

ばつが悪そうに歪められた顔に、問答なしに力いっぱい握った

「いてっっジュード!いたいっ」
「どうして言わないの!隣に医者がいるのに、それとも僕は役に立たない?ほらっ」
「いっ!!」

痛い痛い。
力を加えてるジュードの腕を引き剥がそうと少年の細い腕の上を指が滑る
爪が入ってもジュードは怯みもせず、むしろ握る力が強くなっていく

「ごめ…っごめんってだからおねがいはなして」

涙を滲ませてるのが目に見えて観念したかと、手を離して顔を伺う
涙が滲んで少し息をついてるのがなんだかエロいものを見ているようで、体の中心の心臓が音を鳴らした

「ジュード…」

「ごめんごめん。さ、回復」

早口気味に力いっぱい握って赤くなった腕に手のひらをのせた
白い光が手から溢れて傷口に集まっていく。
癒されて傷口が徐々に塞がっていった


「……元の傷より深手をおってる気がする」

「言わないからだよ」

ルドガーの小言に額を軽く叩いた

「“隠す”と“強がってる”って違うんだから、やめてよ」

おしまいに白い頬をひっぱる
ふぎゃなんて声が聞こえた
マシュマロみたいだ


「………そのつもりはないんだけどなぁ」
片頬が開いたまま動きだした口がおかしくて声をあげた
ルドガーからなにがおかしいんだよ
つたない口が閉じられた

「だってルドガーが怒ったり、情けなかったり、泣いてるとこをもっと見たいんだよ」

ころころ表情が変わるのがちゃんとした人間って感じがして
とは言わない。
自分でもこんな感想を持つのはおかしいと思うし。

「でも怒った顔したときはなんかぞくぞくするし、泣いた顔のときはもっといじめたくなるかな」

突拍子のない大爆弾発言に二人の間が静かになった

これはなんて言うんだろうか
ルドガーを見ていても飽きないってことか。
そう思うと
嘘笑いをしてる顔もいいのかもしれない。
僕はルドガーの嘘笑いにのまれていった。






(どんな表情もいいなって思ったんだ)




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