その他
□きらい。
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アイツの言葉にムカついた。なにか、屈辱的な罵声を浴びせられたら気がする。
俺は腹立たしく、アイツに「死ね」と短く言った。
アイツは眉一つ動かさないで、俺を見つめてくる。
ムカつく。マジでむかつく。
もう一度同じ言葉をぶつけた。それでもアイツは顔を歪めない。
返してくる言葉は、とても切なげなのに。
…どうしよう。これじゃあ、まるで…俺がアイツを、グレイを責めてるみたいじゃねぇか。
「…キライ」一つ小言をこぼす。
俺は悪くない。何もやってなんかいない。けど、お前は笑う。小さく、切なげに笑う。
またムカついた。
俺はそいつに喰ってかかって殴ろうとした。
一気に縮めた距離は、やけに近く感じた。アイツの顔がすぐそこに。
おどろいて、身を引こうとしたら、腰に手をまわされ、声をあげようと、開いた口は閉ざされた。
唇には、柔らかい感触。気付いたときには、もう遅かった。
自分の唇と、グレイの唇同士が触れ合って、体はガッチリと密着されていて、抵抗しようにも初めてのキスに、どうすればいいのか分からない。
流されるままに時は進んでいった。
呆然としていた。突然の行動に。
やがて唇を割って、ぶ厚い舌が中に侵入してきた。
逃げようとする俺の舌を、グレイの舌が追ってくる。
徐々に絡めとられていく舌。目の前にはアイツの顔。
グレイが目を瞑っているからといって、恥ずかしすぎる。
俺もかたく目を瞑った。
目をシャットダウンしても、耳に入ってくる水音。それだけは消せない。
アイツのかぶりつくようなキスに圧倒されて、押し倒されそうになる。それを頑張ってこらえるけれど、キスのせいで思うように体に力が入ってかなくて支えられない。
初めてのキス。その相手はムカつく男。それも唐突に。
唇の端から、唾液が垂れてくる。邪魔くさい。息が続かない。
だけど、やがては長いキスも終わりを告げる。
それを切り出したのは、俺だ。
頼りなく、下がっていた腕に力を込め、グレイの胸を押した。
唇が離れ、舌先から銀色の糸が伸びる。
腰にまわっている手までは、解けることができなかった。
やっと離れた唇は酸素を求め、乱れた息をととのえようと、肩を上下に動かす。
まだととのっていない言葉で発した声は、とても弱々しいものだった。
「…こんな、ことしたって、俺の気持ちは…変わらねぇよ。」
今のではっきり分かった。俺は、アイツのこと…
「きらいだ」
大っ嫌いなんだ。
end